最新記事

紛争

【写真特集】ウクライナ東部に残されたトラウマ

2017年3月27日(月)17時20分
Photographs by Alex Masi

<セルゲイ・トレチアコフ(21)>自分の手で再建を試みるドネツク州アウディイウカの実家に立つトレチアコフは、砲撃で母を失い、父も6カ月後に心臓発作で亡くなった。今は工場のカフェで働き、12歳の弟の面倒も見る。今年1月に生まれた息子こそが「私の生きる理由だ」と話す

<親ロシア派武装勢力と政府の間で今も戦闘が続くウクライナ東部では、日常的な恐怖によって兵士や住民の精神がむしばまれている>

戦争が破壊するのは目に見えるものだけではない。爆撃や死の恐怖の中で過ごす日常は、人々の精神を少しずつむしばむ。

ウクライナ東部では親ロシア派武装勢力と政府の戦闘が今も続く。紛争が本格化した14年4月から約1万人が死亡、100万人以上が住む場所を追われた。

危険な状況を生き延びた市民や兵士らはやがて落ち込んだり、憤りを感じたり、戦闘を続ける両勢力への過剰な疑念を抱くようになる。子供たちは眠れず、悪夢を見たりお漏らしをしたりする。

医療・福祉関係者は絵画や手仕事によるセラピー、カウンセリングなどで根気強く精神的なケアを提供しているが、人員も施設の数も足りず、十分な支援体制は整っていない。

ppukraine-map.jpg

【参考記事】亡命ロシア下院議員ボロネンコフ、ウクライナで射殺

メンタルヘルスをめぐるソ連時代の悪弊も状況を悪化させている。当時、反体制派を弾圧するために精神障害と診断し、病院に隔離する手法がまかり通っていた。そのため人々は今でも、精神分析医を訪れて「正気でない」と烙印を押されることを恐れがちだ。

明るい兆しもなくはない。9月下旬にはウクライナと親ロシア派、ロシアの3者が紛争沈静化に向けた枠組みで合意。戦いの終結を切望する人々の心も少しは癒やされただろうか。

ppukraine02.jpg

休憩中にたばこを吸うウクライナ兵たち。臨時の拠点にしているのは前線の町ザイトセボの廃屋だ


ppukraine03.jpg

1歳半の義理の弟の面倒を見るルドミラ・パルチク(12)。自宅は14年にミサイルで破壊されたため、今はポパスナの空き家に暮らす

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国、今後5年間で財政政策を強化=新華社

ワールド

インド・カシミール地方の警察署で爆発、9人死亡・2

ワールド

トランプ大統領、来週にもBBCを提訴 恣意的編集巡

ビジネス

訂正-カンザスシティー連銀総裁、12月FOMCでも
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 2
    ヒトの脳に似た構造を持つ「全身が脳」の海洋生物...その正体は身近な「あの生き物」
  • 3
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃度を増やす「6つのルール」とは?
  • 4
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 5
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 6
    「不衛生すぎる」...「ありえない服装」でスタバ休憩…
  • 7
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 8
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 9
    「腫れ上がっている」「静脈が浮き...」 プーチンの…
  • 10
    『トイ・ストーリー4』は「無かったコト」に?...新…
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前に、男性が取った「まさかの行動」にSNS爆笑
  • 4
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 5
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 8
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 9
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 10
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中