最新記事

心理学

排斥されていると感じる人ほどフェイクニュースを信じやすい:論文発表

2017年3月1日(水)16時15分
高森郁哉

Thomas_Faull-iStock

昨年の大統領選挙以降フェイクニュース問題に揺れる米国で、心理学の研究者が「排斥されていると感じる人ほど、フェイクニュース(偽ニュース)を信じやすい傾向がある」とする研究の成果を発表した。

米プリンストン大学で心理学・公的行動を専門とするアリン・コーマン助教授の論文が、実験社会心理学の学術誌「Journal of Experimental Social Psychology」に掲載され、英メディアInternational Business Timesなどが報じている

2つの実験

コーマン助教授らの研究チームは、仮説を検証するため2つの実験を計画。まず第1のアンケート調査のため、インターネット上で119人の参加者を募った。

アンケートは4段階の質問で構成。第1段階では、参加者に対し、身近な友人にかかわる最近の不愉快な出来事について記述するよう求めた。

次に、排斥を含む14種類の感情を感じた度合いを自己評価するよう求めた。

続いて、「私は人生の目的や使命を探している」「私は満足のいく人生の目的を見つけた」といった10の主張が自分に当てはまるかどうか、7段階で採点してもらった。

最後に、「製薬会社は財務上の理由で治療薬を隠している」「政府は潜在意識に働きかけるメッセージを使って国民の判断に影響を与えている」「バミューダ三角海域の事象は超自然的な活動の証拠だ」という3つの陰謀論について、どの程度支持できるかを7段階で回答してもらった。コーマン助教授によると、「これら3つの陰謀論は実際に、米国人の大部分に支持されている」という。

第2の実験

第2の実験には、プリンストン大の学生120人が参加。被験者は、「私にとって重要なこと」「私がなりたいと望む人物のタイプ」を書くよう求められた。

実験者は被験者に対し、「これらの回答が他の参加者2人に渡され、協力したい相手かどうかが判断される」と説明。それから、参加者たちを「協力したいと判断されたグループ」「協力したくないと判断された(排斥された)グループ」および対照群の3つに振り分けた。ただし、実験者の説明は偽りで、被験者が評価したのは他の被験者の回答ではなく、研究者が作成した回答だったという。

このグループ分けのあとで、全員が第1のアンケート調査に回答した。その結果、排斥されていると感じた被験者のほうが、陰謀論を支持する傾向が強くなることが実証されたという。

フェイクニュースを信じるメカニズム

コーマン助教授らは、この実験結果が、社会で排斥されていると感じている人がフェイクニュースに答えを求めるのと同じメカニズムだと説明している。陰謀論を支持している人は家族や友人と対立することがあり、排斥されている感覚を強める。そんな状況で陰謀論のコミュニティーに参加すると、そこで歓迎されていると感じ、陰謀論をさらに強く信じるようになる。そうした悪循環が、フェイクニュースを信じる人にも起きているというのだ。

コーマン助教授は、「フェイクニュースの問題に取り組む最善の方法は、排斥されているという感覚と陰謀論的思考の悪循環を断ち切ることだ」と述べている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

アマゾン第1四半期、クラウド事業の売上高伸びが予想

ビジネス

NY外為市場=ドル上昇、円は日銀の見通し引き下げ受

ワールド

トランプ氏、ウォルツ大統領補佐官解任し国連大使に指

ビジネス

米マスターカード、1─3月期増収確保 トランプ関税
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 5
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 6
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 7
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 8
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 9
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 10
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中