最新記事

北朝鮮

北朝鮮が国家ぐるみで保険金詐欺、毎年数十億円を稼ぐ

2017年1月16日(月)15時39分
高英起(デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト) ※デイリーNKジャパンより転載

KCNA via REUTERS

<数百人が死亡するような大規模な事故が多発している北朝鮮の元駐英公使が、亡命した韓国で韓国紙のインタビューに応じ、北朝鮮が国家ぐるみで保険金詐欺を働いていることを明かした> (上は2016年12月13日に公表された写真)

 北朝鮮が国家ぐるみで保険金詐欺を働き、毎年数十億円の外貨を稼いでいたことが明らかになった。

 この疑惑は以前、筆者も本欄で指摘したことのあるものだが、昨年7月に韓国に亡命したテ・ヨンホ元駐英北朝鮮公使が韓国紙とのインタビューで、事実であると認めたのだ。

公開処刑も恐れず

 テ氏はソウル新聞のインタビューに答え、次のように語っている。

「北朝鮮は1980年代はじめから最近まで、ロンドンの国際保険市場で数千万ドルを毎年、稼いできた。北朝鮮には国営の保険会社がひとつだけで、事故をねつ造しても、外部からの検証が不可能な唯一の国だ。橋梁や工場などのインフラを国際保険・再保険に加入させた後、事故を装う文献をねつ造した」

 北朝鮮で、一度に数百人が死亡するような大規模な事故が多発していること自体は事実だ。その多くは無茶苦茶な工期設定や行政の怠慢が原因となった「人災」である。

 しかし北朝鮮当局は、このような本物の事故については、国内にすらアナウンスすることがほとんどなかった。その理由は言うまでもなく、国民の反発を恐れているからである。

 実際、昨年夏の大水害においては当局が住民への通告もなしにダムの水門を開いたため、おびただしい数の犠牲者が出たのだが、現地では公開処刑も恐れず権力批判の声を上げる遺族もいたという。

(参考記事:「あんた達のせいで皆死んだ」住民見殺しで金正恩体制の権威失墜

 その一方、北朝鮮当局は海外の保険会社に対し、実に多くの事故を報告している。韓国KBSによれば、それぞれの事故で得た保険金は次のとおりだ。

 2006年7月に平安南道(ピョンアンナムド)の水害で4230万ドル(約48億3700万円)、同年に旅客船が沈没したとして600万ドル(約6億8700万円)、2005年にはヘリコプターが墜落したとして5800万ドル(約66億3200万円)、1996年には渇水による被害が発生したとして1億3000万ドル(約148億6500万円)。

 これらのほかにも、同様の例が数多く存在すると見られる。

 ちなみに英国政府は昨年、対北朝鮮制裁の一環として自国内にある北朝鮮国営の朝鮮民族保険総会社(KNIC)のロンドン支社を閉鎖する措置を取り、職員2人を事実上国外追放した。同社は、金正恩政権の資金を管理する朝鮮労働党39号室との関連が指摘されており、核兵器やミサイル開発の資金源となっていたとの判断によるものだ。

 北朝鮮の保険金詐欺は、世界最大級の保険市場があるロンドンが舞台となっていたはずで、元駐英公使であるテ氏が証言した意味は重い。今後、同氏の証言を基に、法的な追及がなされる可能性もある。

(参考記事:死者数百人の事故が多発する北朝鮮の「阿鼻叫喚列車」

[筆者]
高英起(デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト)
北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)、『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)、『北朝鮮ポップスの世界』(共著、花伝社)など。近著に『脱北者が明かす北朝鮮』(宝島社)。

※当記事は「デイリーNKジャパン」からの転載記事です。
dailynklogo150.jpg

ニュース速報

ビジネス

ウォルマート、5─7月米既存店売上高は10年ぶりの

ワールド

米350紙、報道の自由訴える論説を一斉掲載 トラン

ビジネス

トランプ米大統領がドル高評価、「経済は堅調」

ビジネス

中国の都市再開発プロジェクト投資額、1─7月は14

MAGAZINE

特集:奇才モーリー・ロバートソンの国際情勢入門

2018-8・14号(8/ 7発売)

日本とアメリカ、世界の知られざる針路は── 異能のジャーナリストによるホンネの国際情勢解説

※次号は8/21(火)発売となります。

人気ランキング

  • 1

    亡くなった人の気配を感じたら......食べて、寝て、遊べばいい

  • 2

    死後世界も霊魂もないなら何をしてもいい──を実行した人がいた

  • 3

    オーストラリアは忘れまい、しかし許そう

  • 4

    元米兵捕虜が教えてくれた、謝罪と許しの意味

  • 5

    死んだ人の遺骨も、ブッダと同じ「仏」と呼ばれるの…

  • 6

    「俺たちが独り身の理由」、米版2ちゃんで聞いた結果

  • 7

    遂に正体を表した習近平──南北朝鮮をコントロール

  • 8

    子供の亡骸を16日間も離さない母シャチの悲嘆「もう…

  • 9

    「慰安婦像」計画を却下した金正恩が、強硬路線に方…

  • 10

    性的欲望をかきたてるものは人によってこんなに違う

  • 1

    子供の亡骸を16日間も離さない母シャチの悲嘆「もう見ていられない」と研究者

  • 2

    亡くなった人の気配を感じたら......食べて、寝て、遊べばいい

  • 3

    「家賃は体で」、住宅難の英国で増える「スケベ大家」

  • 4

    イルカとクジラのハイブリッドを確認、世界初

  • 5

    「乱交」で種の境界を乗り越えるサル

  • 6

    死後世界も霊魂もないなら何をしてもいい──を実行し…

  • 7

    サーモンを愛する「寿司男」から1.7mのサナダムシ発見

  • 8

    「いっそ戦争でも起きれば」北朝鮮国内で不気味な世…

  • 9

    ランボルギーニなど高級車をペチャンコに! ドゥテ…

  • 10

    全長7mの巨大ヘビが女性を丸のみ インドネシア、…

  • 1

    アマゾンのジャングルに1人暮らす文明と接触のない部族の映像を初公開

  • 2

    子供の亡骸を16日間も離さない母シャチの悲嘆「もう見ていられない」と研究者

  • 3

    全長7mの巨大ヘビが女性を丸のみ インドネシア、被害続発する事情とは

  • 4

    人類史上最も残虐な処刑は「首吊り、内臓えぐり、仕…

  • 5

    インドの性犯罪者が野放しになる訳

  • 6

    怒りの僧侶、高野山への外国人観光客にナナメ上の対…

  • 7

    「家賃は体で」、住宅難の英国で増える「スケベ大家」

  • 8

    イルカとクジラのハイブリッドを確認、世界初

  • 9

    実在した...アレクサに怒鳴る男 絶対にお断りした方…

  • 10

    異例の熱波と水不足が続くインドで、女性が水を飲ま…

資産運用特集 グローバル人材を目指す Newsweek 日本版を読みながらグローバルトレンドを学ぶ
日本再発見 シーズン2
メディアプロモーション局アルバイト募集
定期購読
期間限定、アップルNewsstandで30日間の無料トライアル実施中!
メールマガジン登録
売り切れのないDigital版はこちら

MOOK

ニューズウィーク日本版

特別編集 ジュラシックパークシリーズ完全ガイド

絶賛発売中!

STORIES ARCHIVE

  • 2018年8月
  • 2018年7月
  • 2018年6月
  • 2018年5月
  • 2018年4月
  • 2018年3月