最新記事

米医療保険

撤廃寸前のオバマケアに加入者殺到の怪

2016年12月27日(火)17時59分
フィル・ゲイルウィッツ(カイザー・ヘルス・ニュース)

次期大統領に選ばれたトランプ(左)との協調姿勢を見せた共和党ポール・ライアン下院議長 Joshua Roberts-REUTERS

<来月トランプが大統領に就任すれば撤廃必至のオバマケアに今さら殺到するアメリカ人って>

 国民皆保険を目指してオバマ政権が導入した医療保険制度改革(オバマケア)は、保険料の高騰や大手保険会社の撤退が相次ぎ、来年1月のオバマ退任後は存続が危ぶまれている。にもかかわらず、最新の政府統計や各州が公表した報告書によると、2017年向けの加入者数は昨年を上回るペースで増え続けている。

 インターネットで保険加入が急増している背景には、共和党が上下両院で多数派を占める議会やドナルド・トランプ次期米大統領がオバマケアの「廃止」や「置き換え」を一体どのように進めるのか、国民が不安を抱えているからだと、州の担当者や医療保険のコンサルタントは見る。

【参考記事】皆保険恐怖症アメリカ、最新の大嘘4つ

 州に替わって連邦政府が39州で運営するマーケットプレイス(保険購入サイト)Healthcare. govでは、11月1日から12月19日までの間に640万人が加入を申し込んだ。保健福祉省の担当者によると、その数は前年より40万人多い。保険適用が1月1日にスタートするプランへの申し込み締切りは12月19日だったが、引き続き1月31日までは2017年度(1~12月)の保険加入申し込みが可能だ。

保険会社撤退にも負けず

「マーケットプレイスは好調だ。前評判は散々だったが、現実は違った」とシルビア・バーウェル保健福祉省長官は記者会見で語った。

 マーケットプレイスの盛況ぶりは、いくつかの州が運営する保険購入サイトにも反映されていることが、米カイザー財団が運営する「カイザー・ヘルス・ニュース」から各州が入手した統計で明らかになった。ミネソタ州では12月19日の時点で、前年比の2倍に相当する5万4000人以上が保険に加入した。コロラド州、マサチューセッツ州、ワシントン州でも、前年比で少なくとも13%以上増加した。

【参考記事】共和党こそ高齢者殺しの張本人

「トランプ政権になればオバマケアがなくなってしまうのは目に見えているので、その前に加入してしまおうという駆け込み需要が生まれている」と言うのは、ワシントン州が運営する保険取引所の所長であるマイケル・マーチャンドだ。同州では先週の時点で、前年比13%増の17万人以上が保険に加入した。

【参考記事】貧困層の健康問題から目をそむける日本

 それほど加入者数が伸びなかった州もある。コネチカット州は3%、アイダホ州は4%、メリーランド州は1%の増加にとどまり、カリフォルニア州は昨年とほぼ同じ水準だった。ロードアイランド州は昨年度の3万1900人から今年は2万7555人へと落ち込んだ。その原因について同州の担当者は、米医療保険最大手ユナイテッド・ヘルス・グループの全面撤退に伴う加入者数の減少がそのまま反映された結果だと説明した。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米ウクライナ首脳、日本時間29日未明に会談 和平巡

ワールド

訂正-カナダ首相、対ウクライナ25億加ドル追加支援

ワールド

ナイジェリア空爆、クリスマスの実行指示とトランプ氏

ビジネス

中国工業部門利益、1年ぶり大幅減 11月13.1%
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 2
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指すのは、真田広之とは「別の道」【独占インタビュー】
  • 3
    【世界を変える「透視」技術】数学の天才が開発...癌や電池の検査、石油探索、セキュリティゲートなど応用範囲は広大
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 6
    中国、米艦攻撃ミサイル能力を強化 米本土と日本が…
  • 7
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 8
    【銘柄】子会社が起訴された東京エレクトロン...それ…
  • 9
    なぜ筋肉を鍛えても速くならないのか?...スピードの…
  • 10
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 6
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 7
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 8
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 9
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 10
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 6
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 10
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中