最新記事

米外交

中国が笑えない強気で短気なトランプ流外交

2016年12月27日(火)11時00分
ジョン・ハドソン

iStock./GETTY IMAGES

<トランプ次期大統領のタカ派顧問が主導する強硬策は、アジア全域に悪影響を及ぼしかねない>

 ドナルド・トランプが勝てば御しやすい――アメリカ大統領選のさなか、中国当局には「トランプ大統領」を歓迎するような空気さえ漂っていた。

 だが今やそんな楽観ムードは吹き飛び、警戒感が強まっている。大統領就任を年明けに控えたトランプが今月初めに台湾の蔡英文(ツァイ・インウェン)総統と電話で会談し、米歴代政権が堅持してきた「1つの中国」の原則の見直しを示唆したためだ。反発した中国は核搭載可能な爆撃機を南シナ海上空で飛行させ、台湾を主権国家と認めるような発言を続ければ、米中関係は崩壊すると警告している。

 台湾を利用したトランプの挑発は、対等な米中関係への移行を模索する中国への意図的な攻撃の第1弾といえる。対中強硬派の側近に囲まれたトランプは、台湾に接近し、アジアの軍備を拡大し、アジア諸国とTPP(環太平洋経済連携協定)に代わる2国間貿易協定の締結を進めることで、中国の軍拡と経済成長に対抗しようとしている。

 最初の兆候は政治顧問の人選だった。トランプ陣営には、オバマ政権時代よりずっと強硬な対中政策を提唱するタカ派の面々が並んでいる。

【参考記事】「中国から雇用を取り戻す」トランプ政策の勝算はゼロ

 アジア問題担当顧問のマイケル・ピルズベリーは、中国がアメリカをしのぐ超大国になるための「100年マラソン」戦略を極秘に進めていると著書で論じた人物だ。軍事顧問のJ・ランディ・フォーブス下院議員は、中国を牽制するために海軍の大幅増強を提唱。ピーター・ナバロは自由貿易反対派の経済学者で、米台の接近を唱えている。

 彼らの対中政策は、アメリカが経済的にも軍事的にも中国を凌駕していた時代への逆行を思わせる。だが中国は軍備の近代化を加速させ、今やアメリカの優位は大きく揺らいでいる。経済面でも、TPP離脱後のアメリカが制裁関税などで中国を抑え込むのは困難だし、逆効果だ。

 トランプ陣営が選挙後も強硬な態度を取り続けるとは、中国にとっても驚きだった。中国当局は仮に大統領選でトランプが勝っても、当選後は米政界の既存の外交勢力がタカ派顧問らの影響力を中和し、急激な変化を阻止するだろうと考えていた。

「誰かが現実や真実から懸け離れた主張をしても、米政府は従わないだろう」と、全国人民代表大会外事委員会の傅瑩(フー・イン)主任委員は大統領選の数日後に語っていた。彼女は中国の「100年マラソン」への警戒を説いたピルズベリーの著書を「ナンセンス」と切り捨て、「彼がトランプの顧問だというニュースには笑った」と語ったものだ。

 だがもはや、笑い話ではない。トランプはFOXニュースのインタビューで「中国と貿易を含むさまざまな取引ができないのなら、なぜ『1つの中国』に縛られなければならないのか分からない」と発言。中国は深刻な懸念を表明し、トランプの真意を探ろうと躍起になっている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ガザ休戦交渉難航、ハマス代表団がカイロ離れる 7日

ワールド

米、イスラエルへ弾薬供与停止 戦闘開始後初=報道

ワールド

アングル:中国地方都市、財政ひっ迫で住宅購入補助金

ワールド

岸田首相、「グローバルサウスと連携」 外遊の成果強
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが...... 今も厳しい差別、雇用許可制20年目の韓国

  • 2

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 3

    翼が生えた「天使」のような形に、トゲだらけの体表...奇妙な姿の超希少カスザメを発見、100年ぶり研究再開

  • 4

    こ、この顔は...コートニー・カーダシアンの息子、元…

  • 5

    ウクライナがモスクワの空港で「放火」工作を実行す…

  • 6

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 7

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 8

    単独取材:岸田首相、本誌に語ったGDP「4位転落」日…

  • 9

    マフィアに狙われたオランダ王女が「スペイン極秘留…

  • 10

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 3

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 4

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 5

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 6

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 7

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 8

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 9

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 10

    メーガン妃の「限定いちごジャム」を贈られた「問題…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

  • 10

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中