最新記事

テロ

昨日起こったテロすべての源流はアレッポにある

2016年12月21日(水)16時00分
ジャニーン・ディ・ジョバンニ

アレッポから脱出する人々 Abdalrhman Ismail-REUTERS

<シリアのかつての商業中心地の破壊は、これから中東を――そして欧州を襲うさらにおそろしい事態の前触れだ>

 12月19日は最悪の1日だった。アンカラではトルコ人の男がロシア大使を射殺した。ベルリンでトラックが群衆に突っ込んだ事件は、昨夏ニースで起こったトラック突入テロの恐怖を彷彿とさせる。国連安全保障理事会は、アレッポから住民が安全に避難できるようにする監視団を送る決議を採択した。ただし、骨抜きにして。

 これらの一連の出来事は、1914年のサラエボを思い起こさせる。ガヴリロ・プリンツィプという名の若いセルビア人の暗殺者がフェルディナント大公を殺害したサラエボ事件は、第一次世界大戦の引き金になった。

 19日の様々な出来事に共通するキーワードは、アレッポだ。アレッポの陥落と、その後に起きていることの両方が絡んでいる。外交問題評議会会長のリチャード・ハースは、「アレッポが陥落し、ISがモスルとラッカを失いつつあるいま、(アレッポの出来事は)これから起きるさらなるテロの前触れとなる可能性が高い」と予測している。

【参考記事】世界が放置したアサドの無差別殺戮、拷問、レイプ
【参考記事】アレッポ陥落、オバマは何を間違えたのか?

骨抜きの監視決議

 ハースは正しいかもしれない。19日にはロシアがついに、アレッポからの市民退避を国連が監視できるようにするための安保理決議案に合意した。表面上は良いことのように思える。安保理はシリアをめぐって長らく分裂状態にあり、ロシアと中国は、反政府勢力の助けになりそうな決議には片っぱしから拒否権を行使してきた。だが、フランスがまとめた今回の決議案には、実際にはほとんど重みがない。監視団は国際休戦監視部隊でも平和維持軍でもなく、退避の際に起きた戦争犯罪を記録できる人権担当官でさえない。シリア政府の協力に全面的に依存することになるのだ。

 ある外交筋は、微妙な話題であるためとして匿名を条件に取材に応じ、本誌に次のように語った。「ロシアのおかげで、安保理決議は、現地の軍隊に指揮権を与えるという中途半端なものになった」

 監視団は、アレッポ東部に到着する前に、どこかの検問所で足止めを食らうかもしれない。シリア政府軍が監視団の前進を阻む可能性もある。

「また、監視団をダマスカスからアレッポへ送るための書類の処理に......数時間か、数日かかるかもしれない」と、ある国連幹部は語っている。「書類がダマスカスのデスクの上に置かれているあいだに、いろいろ悪いことが起きる可能性もある」

 国連事務総長の報道官を務めるステファン・デュジャリックは、日課の記者会見の際、監視団の人数や派遣時期に関するコメントを避けた。シリアの現場でプロセスを詰めているところだ、とデュジャリック報道官は述べた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

日経平均は3日ぶり反落、米関税にらみ上値重い 中国

ワールド

ウクライナ第2の都市に無人機攻撃、子ども3人含む2

ビジネス

国内ファンドのJAC、タダノ株を11.02%取得

ビジネス

日産、転換社債と普通社債で7500億円調達 リファ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプvsイラン
特集:トランプvsイラン
2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    アリ駆除用の「毒餌」に、アリが意外な方法で「反抗」...意図的? 現場写真が「賢い」と話題に
  • 3
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」だった...異臭の正体にネット衝撃
  • 4
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚…
  • 5
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 6
    コンプレックスだった「鼻」の整形手術を受けた女性…
  • 7
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 8
    「シベリアのイエス」に懲役12年の刑...辺境地帯で集…
  • 9
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコ…
  • 10
    ギネスが大流行? エールとラガーの格差って? 知…
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 3
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコに1400万人が注目
  • 4
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 5
    【クイズ】「宗教を捨てる人」が最も多い宗教はどれ?
  • 6
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 7
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 8
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚…
  • 9
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 10
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 5
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 6
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 9
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 10
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中