最新記事

フィリピン

ドゥテルテ大統領、虚偽の数字でフィリピン「麻薬戦争」先導か

2016年10月28日(金)10時55分

10月24日、血なまぐさい麻薬戦争を正当化するためにフィリピンのドゥテルテ大統領(写真)が用いている数字には誇張やねつ造がみられることが、ロイターによるデータ検証などで明らかに。写真は26日、 都内で開催されたフィリピンの経済フォーラム演説する同大統領(2016年 ロイター/Kim Kyung-Hoon)

 フィリピンのドゥテルテ大統領は、先日マニラで行った演説を、いまやお馴染みの主張で締めくくった。それは、この国から麻薬一掃するための激しい戦いで「毎日2人の警官が命を落としている」というものだ。

 だが、警察統計によれば、この数字は誇張されている。ドゥテルテ大統領が「麻薬戦争」を開始した7月1日から、演説を行った10月12日までに殺害された警官は13人。8日に1人のペースだ。

 血なまぐさい麻薬撲滅作戦を正当化するために同大統領が根拠薄弱な主張を繰り広げる例は、これに留まらないことが、ロイターによる政府公式データの検証と、ドゥテルテ政権の麻薬対策担当の高官に対する取材で明らかとなった。

 ロイターが取材した担当者らによれば、麻薬使用者の総数、治療を必要とする使用者数、使われている麻薬の種類、麻薬関連犯罪の蔓延といったデータには誇張やねつ造が見られ、もしくはデータがそもそも存在していないという。

 だが、統計に問題があることは重大ではないと彼らは主張する。今回の麻薬撲滅作戦は、フィリピンにおいて長年放置されていた危機に関心を集めるものだからだ。

「問題だとは思っていない」と、フィリピン麻薬取締庁(PDEA)でマニラ首都圏地域担当ディレクターを務めるウィルキンス・ビラヌエバ氏は語る。「かつては、危険な薬物に対するわれわれの戦いは孤立していた。今では、皆が助けてくれる。地域社会の協力が得られる」

 フィリピン警察によれば、ドゥテルテ大統領が就任した6月30日以降、警察による摘発のなかで、あるいは自警団と見られる者によって殺害された人々は2300人近くに達している。当初3600人が死亡とされていたが、今月に入り数値は下方修正された。

 ロイターの問い合わせに対し、マーティン・アンダナル大統領広報官は、報道は「悪意に満ちて」いるとして、フィリピン国家警察に問い合わせるよう促した。

 麻薬撲滅作戦は海外では批判を浴びているものの、フィリピン国内では幅広い支持を獲得。ドゥテルテ大統領によれば、フィリピンは「麻薬の脅威」に対処しなければ崩壊の危機にひんしていたという。

現実世界への脅威

 大統領就任後、最初に行った7月25日の一般教書演説において、ドゥテルテ氏は、フィリピン国内には370万人の「麻薬中毒者」がいると断言した。

「息をのむような、恐ろしい数字だ」と大統領は語った。「私の国を破壊しつつある、こうした愚か者を抹殺しなければならない」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イスラエルがイラン再攻撃計画か、トランプ氏に説明へ

ワールド

プーチン氏のウクライナ占領目標は不変、米情報機関が

ビジネス

マスク氏資産、初の7000億ドル超え 巨額報酬認め

ワールド

米、3カ国高官会談を提案 ゼレンスキー氏「成果あれ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 2
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低く、健康不安もあるのに働く高齢者たち
  • 3
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリーズが直面した「思いがけない批判」とは?
  • 4
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 5
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦…
  • 6
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 7
    米空軍、嘉手納基地からロシア極東と朝鮮半島に特殊…
  • 8
    週に一度のブリッジで腰痛を回避できる...椎間板を蘇…
  • 9
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 10
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 9
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 10
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中