最新記事

医療

がん治療にまた新たな希望 免疫療法で製薬各社の競争加速

2016年10月18日(火)18時43分

10月10日、イブリン・オフリンさんは今も肺がんを患っている。だが1年以上前に、従来の耐え難い化学療法に代えて、新しい免疫系強化薬を試してみたところ、気分はとても良好だという。写真は2013年、英国のがん研究センターのラボにて(2016年 ロイター/Stefan Wermuth)

 イブリン・オフリンさんは今も肺がんを患っている。だが1年以上前に、従来の耐え難い化学療法に代えて、新しい免疫系強化薬を試してみたところ、気分はとても良好だという。

「まるで奇跡のよう」と、かつて喫煙者だった72歳のオフリンさんは語る。彼女にはまもなく曾孫が生まれる予定だ。

 米製薬大手メルクの免疫療法薬「キートルーダ」による治療を受けている患者のなかで、オフリンさんは成功例の1つである。

 欧州臨床腫瘍学会(ESMO)総会に提出されたデータによれば、英国における臨床試験の一環として、オフリンさんに行われている初期段階の免疫療法は、増加する患者に対する標準となりそうだ。

 だが、そこに罠もある。誰にでも効くというわけではないのだ。

 免疫療法のみの治療が化学療法よりもうまく行くように見えるのは、これまでは治療不可能だった肺がん患者のうち、免疫療法に対する受容性を高める「PD-L1」と呼ばれるタンパク質の値が高い人だけである。

 コペンハーゲンで開催されたESMO総会では今後、肺がん患者はこの生体指標を定期的にチェックするべきだと腫瘍学者に伝えられた。

 だが、非小細胞肺がん患者のうち、PD-L1を生成する細胞を最低50%含むような腫瘍が見られるのは、4分の1から3分の1にすぎない。大多数の患者は免疫療法を受けられず、市場の約70%は依然として未開拓のままである。

 1種類の薬剤だけを使う単剤療法であらゆる患者に対応できないことは、米製薬大手ブリストル・マイヤーズ・スクイブにとって打撃だ。ブリストルは「オプジーボ」と呼ばれる薬による治療ですべてに対処しようとしていたが、大規模な臨床試験において全面的に失敗してしまった。

 ただ、これによって、メルクやスイスのロシュ、英アストラゼネカといった、史上最大の売上をもたらす薬の1つになり得る製品を持つライバル製薬会社にとっても競争の場が開かれた。各社とも、複数の治療法を巧みに組み合わせる方法を見つけようと競い合っている。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

ロシア・トルコ首脳が電話会談、中東情勢について協議

ワールド

米戦闘機、イラン上空で撃墜 乗員1人救助との報道

ビジネス

米3月雇用者数17.8万人増、過去15カ月で最多 

ワールド

トランプ氏、ホルムズ海峡「時間あれば開放できる」 
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本企業に迫る サステナビリティ新基準
特集:日本企業に迫る サステナビリティ新基準
2026年4月 7日号(3/31発売)

国際基準の情報開示や多様な認証制度──本当の「持続可能性」が問われる時代へ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【銘柄】「三菱商事」の株価に高まる期待...ホルムズ海峡封鎖と資源価格高騰が業績を押し上げ
  • 2
    イラン戦争の現実...アメリカとイスラエル、見え始めた限界
  • 3
    攻撃開始日も知っていた?──イラン戦争を巡る巨額取引、インサイダー疑惑が市場に波紋
  • 4
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅…
  • 5
    「考えの浅い親」が子どもに言ってしまっている口ぐ…
  • 6
    なぜイスラエルは対イラン戦争を支持するのか...「イ…
  • 7
    中国は「アカデミズムの支配」を狙っている? 学術誌…
  • 8
    血圧やコレステロール値より重要?死亡リスクを予測…
  • 9
    『ナイト・エージェント』主演ガブリエル・バッソが…
  • 10
    満を持して行われたトランプの演説は「期待外れ」...…
  • 1
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅」企業が救う、ウクライナの未来
  • 2
    「水に流す」日本と「記憶する」韓国...気候と地理が育んだ「国民意識の違い」とは?
  • 3
    攻撃開始日も知っていた?──イラン戦争を巡る巨額取引、インサイダー疑惑が市場に波紋
  • 4
    記憶を定着させるのに年齢は関係ない...記憶の定着度…
  • 5
    なぜイスラエルは対イラン戦争を支持するのか...「イ…
  • 6
    ロシア経済を支える重要な港、ウクライナのものと思…
  • 7
    オランウータンに「15分間ロックオン」された女性のS…
  • 8
    映画『8番出口』はアメリカでどう受け止められた?..…
  • 9
    ヘンリー・メーガン夫妻の豪州訪問に3万6000人超の反…
  • 10
    年金は何歳からもらうのが得? 男女で違う「最適な受…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 3
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅」企業が救う、ウクライナの未来
  • 4
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...…
  • 5
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
  • 6
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
  • 7
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 8
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 9
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
  • 10
    メーガン妃、娘リリベット王女との「お手伝い姿」公…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中