最新記事

日本

戦略なき日本の「お粗末」広報外交

2016年9月26日(月)16時22分
舛友雄大(アジア・ウォッチャー)

Toru Yamanaka/ Pool-REUTERS

<中国が積極的に国内外のメディアに情報発信をし、国際世論の形成に力を注ぎ始めているのに対し、日本の広報外交はあまりに閉鎖的。国際会議などのニュースの現場で外国プレスに発信しようという戦略がまったくないが、果たしてそれでよいのか。南シナ海問題でも、日本の外交は思い通りにいっていない> (写真:岸田外相〔左〕と中国の王毅外相、8月24日)

 筆者は中国メディアのスタッフやシンガポールで研究員として働くにあたり、日本の広報について考えさせられることが多かった。先日、外国プレスの一員として向かったラオスの首都ビエンチャンで改めてこの国の広報戦略再考の必要性を感じた。

 7月下旬に開かれたASEAN関係外相会議の1日目夜、日本の外務省が会見を行うと聞いていたので、予定の時間より早く会見室へ向かった。日本に対する注目度を考えるとそれほど驚きではないが、部屋の中には誰もいなかった。同じ日の午後に中国の王毅外相が開いた記者会見とは非常に対照的だった。

 お昼過ぎ、この小さな部屋は、中国人記者のみならず、日本や他のアジアの国々、そして欧米から駆けつけた100人近くの記者やカメラマンでごった返していた。中英の通訳と華春瑩報道官を引き連れて現れた王毅は、中国メディアからの当たり障りのない質問にも、欧米メディア記者の鋭い質問にも丁寧に答え、語られた言葉はすぐに世界へ発信されていった。

【参考記事】対中強硬派のベトナムがASEAN諸国を結束させられない理由

 夜の話に戻す。それから間も無くして、日本の駐ブルネイ大使館から応援でビエンチャン入りした外務省職員がやってきた。これまでに広報の経験がないとのことで、「プレスセンターはいつ閉まるのか」「他にどれくらい記者が参加しそうか」などと質問してきた。そして、会見を行う予定の報道官と電話でやりとりを重ねていた。

 いつまで待っても、記者会見をやるという目処が立たないので、その担当者に名刺を渡し――彼女はもしものときには電子メールでのやりとりが可能だと示唆していた――会見室を後にした。今夜開くにしても開かないにしても、2日目の夜には会見を開くという見通しを伝えてきたので、安心しきっていた。

 だが、2日目の夜、同じ時間に会見室に行くとドアに鍵がかかっていた。彼女に電話してみると、今日の会見も中止になり、ブリーフィングができる報道官はすでにビエンチャンを発った、と話す。この対応はいかがなものかと問うと、丁重に謝罪してきたが、「予定ですので」の一点張りで、メールや電話など別の形でのブリーフィングについても無理だという回答だった。

 つまり、日本は今回のビエンチャンでの会議で外国プレスに対して全く発信をしていないということだ()。1日目の会見場には、日本語ができる外国人記者を含めた3人の記者が最終的に現れていたが、彼らが日本の声を詳しく伝えることはなかっただろう。一方、近年、対外情報発信を重視しはじめた中国は、国際会議参加の際、国内・海外メディア向けに、翻訳付きで記者会見を行うことが慣例となっている。

 日本の外務省は国内メディアに対しては細やかに日本語でブリーフィングや記者会見を行っている。しかし、海外メディアに対しては、今回のビエンチャンでの会議のような国際会議において「おまけ」のような対応に終始している。海外プレスについては、むしろ個別インタビューに積極的に応じ、重要だと考えられる海外メディアの記者とは直接会って説明をする方針だという。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

インフレリスクは上振れ、小幅下振れ容認可能=シュナ

ビジネス

エネルギー貯蔵、「ブームサイクル」突入も AI需要

ワールド

英保健相、スターマー首相降ろし否定 英国債・ポンド

ビジネス

ロシア、初の人民元建て国内債を12月発行 企業保有
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評家たちのレビューは「一方に傾いている」
  • 2
    ギザのピラミッドにあると言われていた「失われた入口」がついに発見!? 中には一体何が?
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    炎天下や寒空の下で何時間も立ちっぱなし......労働…
  • 6
    冬ごもりを忘れたクマが来る――「穴持たず」が引き起…
  • 7
    ファン激怒...『スター・ウォーズ』人気キャラの続編…
  • 8
    コロンビアに出現した「謎の球体」はUFOか? 地球外…
  • 9
    「流石にそっくり」...マイケル・ジャクソンを「実の…
  • 10
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 1
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 4
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 5
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 6
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 7
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 8
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 9
    「路上でセクハラ」...メキシコ・シェインバウム大統…
  • 10
    クマと遭遇したら何をすべきか――北海道80年の記録が…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 7
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 8
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 9
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 10
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中