最新記事

「国境なき医師団」を訪ねる

ギリシャまで、暴力や拷問から逃れてきた人々

2016年9月20日(火)16時00分
いとうせいこう

スケジュール変更

 7月15日。
 マリエッタからのブリーフィングを聞き終えて、俺と国境なき医師団(MSF)ジャパン広報の谷口さんはタクシーに乗ったのだった。車を呼んでくれたのはMSFギリシャの広報ディミトリスさんで、彼は運転手に行き先まで告げてくれた。

 数分で俺たちは細い道の中に立つ白いビルの前に着いた。一階は改装中で、ガラス張りのオフィスの中に工事関係者が三人ぼんやりと椅子に座っていた。

0920ito2.jpg

OCB(オペレーションセンター・ブリュッセル)のアテネ事務所

 ビルの三階にMSFベルギー(OCB)のオペレーション・センターがあった。今回の取材を仕切ってくれているそこで、俺たちはスタッフ用宿舎のカギをもらわねばならなかった。

 引っ越したばかりのようなきれいなオフィスは、真ん中に廊下があり、両端にガラス張りの各部屋がある形で、そこに若いスタッフが詰めていた。

 誰が誰か覚えられない早さで大勢の人と握手をし、自己紹介をしている間に、外国人派遣スタッフの渡航・宿泊の手配を担当しているエリーザこと、エリザベス・ビリアノウさんが2セットのカギをくれた。

 その日は当初取材がなかった予定なのだが、俺たちが日本を出る日にスケジュール変更の連絡があったらしく、カギと一緒に宿舎の地図のコピーをもらって急いで外に出た。歩いて10分ほどのその場所に、まず荷物を置く必要があった。そこもタクシーで行くものかと思ったが、エリーザさんは歩くことしか前提にしていなかった。

 これはギリシャにいる間にわかったことだが、彼らはよく歩く。飲みに行く時も、仕事の時も、出勤も帰宅も、20分以内なら(ひょっとしたら30分でも)絶対に歩行だ。地下鉄が走っていて、設置された自動改札はチケットに穴を開けるだけだからタダ乗りさえ自由なのにも関わらず、ギリシャ人は、少なくともアテネ人はあまり電車に乗らない。

0920ito3.jpg

アテネ市内の樹木の勢いが素晴らしい。

 それにならったわけでもないが、俺たちは地図で指定された通りに荷物をゴロゴロ言わせて歩き、ひとつの通りに面したビルの2LDKに入ると、ひとつずつ無言で部屋を選んでそのカートを置くやいなやすぐにまた外へ出た。

 予定が変わった行き先は少し遠かったから、そこはタクシーを拾った。住所が書かれた紙を運転手氏に渡すと、俺より少し年上といった感じの彼は機嫌よさそうにうなずき、車を発進させた。

 運転手氏は煙草を吸い、灰を外に落とした。こちらもシートベルトをしなかった。いかにもヨーロッパ的なそういう振る舞いに妙な旅行気分を刺激された俺は窓の外をキョロキョロ見た。アテネは街路樹が多様で豊富だった。道の両側の建物の前にはイチジクやオリーブや火炎樹らしき木が植えられ、中央分離帯にも樹木が並んで木陰を作っていた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米、競業他社への転職や競業企業設立を制限する労働契

ワールド

ロシア・ガスプロム、今年初のアジア向けLNGカーゴ

ワールド

豪CPI、第1四半期は予想以上に上昇 年内利下げの

ワールド

麻生自民副総裁、トランプ氏とNYで会談 中国の課題
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 2

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の「爆弾発言」が怖すぎる

  • 3

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴らす「おばけタンパク質」の正体とは?

  • 4

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 5

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 6

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 7

    「なんという爆発...」ウクライナの大規模ドローン攻…

  • 8

    イランのイスラエル攻撃でアラブ諸国がまさかのイス…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 8

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 9

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 10

    ダイヤモンドバックスの試合中、自席の前を横切る子…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中