最新記事

電子書籍

日本版「キンドル・アンリミテッド」は、電子書籍市場の転機となるか

2016年8月6日(土)10時50分
鎌田博樹(EBook2.0 Magazine)

時間はアマゾンに味方する

 出版社(をめぐる環境)は変わった。アマゾンは変わらず、機会を待っている。アマゾンには時間があり、出版社には時間がない。国内なら日本企業に地元の利があり、外資系企業は撤退も早いという"常識"も、アマゾンのビジネスモデルには通用しなかった。欧米の大出版社は、まだUnlimitedにタイトルを提供していない。しかし、KUはなお成長速度を落としていないし、中小出版社と自主出版者だけで大きな市場を形成した。

 Kindleは大手出版社に依存せず、逆に自主出版のための大市場を開拓した。価格政策が硬直的な大手出版社は、E-Bookでは存在感を薄れさせており、印刷本でもベストセラーのディスカウント販売に頼っている。

 出版社は、待つことが状況を悪化させるという、21世紀の現実を知るべきだ。Yahoo!は、40億ドルでベライゾンに買収されたが、2014年には400億ドル、2012年には4,000億ドル相当と評価されていた。2年で10分の1。Yahoo! が何もしていなかったわけではない。手は打ったが、デスクトップからモバイルへというプラットフォームの変化のスピードについていけなかった。

 後知恵でいえることは、スタートが遅かったということだ。2010年に軌道に載せていなかったプロセスを、既存の(ピークを迎えた)ビジネスのためのプロセスと共存させつつ新たに立ち上げるのは、事実上不可能だったと思う。やはりマイクロソフトから買収に応じるべきだったのだろう。

 アマゾンは変化が待ってくれないことを覚悟し、モバイルへの対応を2010年以前に完了していた。Kindleもその一つだし、クラウド・プラットフォームにより、タブレット時代にも、余裕をもってキャッチアップすることができた。アップルはデバイスにおけるモバイル転換の成功で満足してしまった。

 業界トップ企業は、まだ現在の変化のスピードを理解していない。それは「業界」や「会社」「事業」「組織」というものを前提として発想し、そうでないものは採用されないからだ。アマゾンと同世代のYahoo! でさえそうだった。アマゾンが違うのは、不変なもの(消費者)を出発点とし、ビジネスではなく、変化を前提とするビジネスモデルを更新していることだ。時間に追われないためには先回りするしかないのだから、メディアの評判などを聞いてるヒマはない。


※当記事は「EBook2.0 Magazine」からの転載記事です。

images.jpg

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米中貿易枠組み合意、軍事用レアアース問題が未解決=

ワールド

独仏英、イランに核開発巡る協議を提案 中東の緊張緩

ワールド

イスラエルとイランの応酬続く、トランプ氏「紛争終結

ワールド

英、中東に戦闘機を移動 地域の安全保障支援へ=スタ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 2
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 3
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されずに「信頼できない人」を見抜く方法
  • 4
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 5
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 6
    構想40年「コッポラの暴走」と話題沸騰...映画『メガ…
  • 7
    逃げて!背後に写り込む「捕食者の目」...可愛いウサ…
  • 8
    「結婚は人生の終着点」...欧米にも広がる非婚化の波…
  • 9
    4年間SNSをやめて気づいた「心を失う人」と「回復で…
  • 10
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 5
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 6
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 7
    ふわふわの「白カビ」に覆われたイチゴを食べても、…
  • 8
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 9
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 10
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 1
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 2
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中