最新記事

米大統領選

トランプはプーチンの操り人形?

2016年7月29日(金)23時30分
マクシム・トルボビューボフ(米ウッドロー・ウィルソン・センター/ケナン研究所上級研究員)

Alexander Zemlianichenko- REUTERS

<米民主党のメール流出のロシア関与説とトランプのプーチン好きが相まって、トランプ「操り人形」説はアメリカの主流メディアがまじめに取り上げる関心事になった>

 これまでの常識では、アメリカの大統領候補がロシアと「うまくやる」ことを有権者にアピールしたり、ロシアの大統領を褒めちぎることなどあり得なかった。

 そんなことをしても受けるはずがない。ロシアの脅威に晒されているバルト三国やポーランド、ウクライナ系の移民コミュニティーはもちろん、米ソ冷戦の記憶が残る知識層や、メディアで絶えずロシアの悪評を耳にしてきた普通のアメリカ人に至るまで、有権者の多くはロシアに対する賛辞など聞きたくもないからだ。

 安全保障以外の対ロシア政策がアメリカの主要な政策課題になることはありえないという意見も何度も聞いた。貿易額を見ても、2015年のロシアとの貿易額は210億ドル。中国はその30倍、サウジアラビアでも3倍と、格差は歴然としている。つまり叩く分にはリスクが少なく都合がいいが、美辞麗句を並べても何の得にもならない。

 アメリカの大統領選では蚊帳の外だったそのロシアが、ここにきて一気に存在感を増している。米共和党の大統領候補ドナルド・トランプが、共和党の伝統の対ロシア強硬路線を破ってロシアとの関係を改善させると約束、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領を称賛しまくっているからだ。

【参考記事】トランプはなぜプーチンを称賛するのか

 米民主党全国党大会の直前に、民主党内の分裂を示すメールが流出してヒラリー・クリントンの足を引っ張ったときは、ロシア政府系のハッカーの関与が指摘された。

【参考記事】常軌を逸したトランプ「ロシアハッキング」発言の背景

 トランプとロシアの親密さは尋常ではない、ひょっとするとロシアの操り人形なのではないかという指摘は、瞬く間にあらゆる主流メディアに広がった。

 ニューヨーク・タイムズ紙のアンドリュー・ローゼンタールはコラムで、トランプが過度にロシアをもてはやしていると批判した。ノーベル賞受賞経済学者のポール・クルーグマンも、トランプを「シベリア出身の候補だ」と一蹴。ジャーナリストのジェフリー・ゴールドバーグはアトランティック誌で、ヒラリーが大統領選で戦うのは「トランプという名のプーチン」だと書いた。

 オンライン雑誌スレートのフランクリン・フォアは「プーチンの操り人形」と題し、トランプを筆頭に選挙対策責任者のポール・マナフォート、外交政策顧問のカーター・ペイジらが、プーチンやロシア系の経済界と親密な関係にあると指摘した。

「スパイの国」の株を奪う

 長年アメリカの影響を潰すことに血道を上げる旧ソ連やロシアを見てきたロシア人にとっては皮肉な話だ。ロシアで政権に反対する勢力は「アメリカのスパイ」というレッテルを貼られ、危険視されてきた。今年に入ってからも、外国から資金を得ているNGOを「外国エージェント」に指定し、厳しい監視下に置く法律を制定している。外国資本が入ったメディアも、政府から圧力をかけられている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

スイス中銀、第1四半期の利益が過去最高 フラン安や

ビジネス

仏エルメス、第1四半期は17%増収 中国好調

ワールド

ロシア凍結資産の利息でウクライナ支援、米提案をG7

ビジネス

北京モーターショー開幕、NEV一色 国内設計のAD
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴らす「おばけタンパク質」の正体とは?

  • 3

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗衣氏への名誉棄損に対する賠償命令

  • 4

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 5

    マイナス金利の解除でも、円安が止まらない「当然」…

  • 6

    ワニが16歳少年を襲い殺害...遺体発見の「おぞましい…

  • 7

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負け…

  • 10

    ケイティ・ペリーの「尻がまる見え」ドレスに批判殺…

  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 5

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 9

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中