最新記事

【2016米大統領選】最新現地リポート

大荒れの民主党大会で会場を鎮めたミシェルのスピーチ

2016年7月27日(水)15時30分
渡辺由佳里(エッセイスト)

 党大会には予備選で負けた候補を支援する代議員も集まるので、どの党大会でも会場には不満を抱える党員がいる。だがこれほど無礼な振る舞いは近年なかっただろう。(マーティン・ルーサー・キング・ジュニアやロバート・ケネディが暗殺された)1960年代の激動の時代以来ではないかと、政治評論家が語る程だ。

 サンダース支持のマークレイやシルバーマンまで野次で妨害された。そんな大荒れの雰囲気を収めたのが、ミシェル・オバマだった。彼女がヒラリー支援を宣言したときに、サンダース支持者からは、ブーイングや「バーニー! バーニー!」というチャントが起こったが、「8年前に(予備選に敗れたヒラリーが)指名を得ることができなかったとき、彼女は怒ったり、幻滅したりはしなかった」と、スピーチで間接的にたしなめた。

 アメリカのポジティブな面に焦点を絞ったミシェルのスピーチは、怒りや憎しみをかきたてるトランプとは対称的で、特に次の部分は聴衆全体の心を掴んだ。「私は、奴隷が建てた家(ホワイトハウス)で、毎朝目覚めます。そして、私の娘たち、賢くて美しい2人の若い黒人女性がホワイトハウスの芝生で犬と戯れるのを眺めます。ヒラリー・クリントンのおかげで、私たち全員の息子や娘たちは、女性が大統領になるのを当たり前だと思えるようになるのです」

 ミシェルに続くウォーレンとサンダースのスピーチでも野次やブーイングは起こったが、ミシェルのスピーチを境に雰囲気は次第に落ち着いていった。

【参考記事】トランプ、NATO東欧の防衛義務を軽視

 党大会初日を終えた時点で、以前から取材を続けているサンダース支持者の感想を聴くと、彼らが二つに分かれ始めているのを感じる。

 一つは、「バーニー(サンダース)が何を言おうが、ヒラリーには絶対に投票しない。ヒラリーも民主党も腐っている」という、「Bernie Or Bust(バーニーでなければ破壊)」のグループだ。

 もう一つは、「トランプが勝ったら、彼が最高裁判事を任命することになる。その場合には、長年かけてリベラルが勝ち取ってきた、中絶の権利、同性婚の権利、人種や宗教による差別の禁止、などが奪われてしまう。ヒラリー当選を応援するしかない」と、危機感を覚えるグループだ。

 サラ・シルバーマンは、会場でブーイングをしているサンダース支持者に向かって「ちょっと言わせてもらえる? Bernie or Bustの人たち、あんたたち、馬鹿げているわよ」と、話しかけていたが、私が取材したサンダース支持者の一人も「彼らの行動は、バーニーがせっかく始めた改革を妨害する逆効果しかない」と苛立ちを露わにしている。

 だが前回2008年の選挙でヒラリーを応援した民主党員の1人は、「落胆しているサンダース支持者の気持ちはわかる」と言う。「選挙では、感情の投資が大きい。すべてをつぎ込んだ後ですっかり失うのは辛いものだ。特に、これが初めての人は、傷も深い。立ち直るのには時間がかかるだろうね」と。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ユーロ圏銀行、資金調達の市場依存が危機時にリスク=

ビジネス

ビットコイン一時9万ドル割れ、リスク志向後退 機関

ビジネス

欧州の銀行、前例のないリスクに備えを ECB警告

ビジネス

ブラジル、仮想通貨の国際決済に課税検討=関係筋
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影風景がSNSで話題に、「再現度が高すぎる」とファン興奮
  • 3
    悪化する日中関係 悪いのは高市首相か、それとも中国か
  • 4
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地…
  • 5
    マイケル・J・フォックスが新著で初めて語る、40年目…
  • 6
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 7
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 8
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 9
    山本由伸が変えた「常識」──メジャーを揺るがせた235…
  • 10
    南京事件を描いた映画「南京写真館」を皮肉るスラン…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 5
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 6
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 7
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 8
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 9
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 10
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中