最新記事

北朝鮮

習近平はなぜ北朝鮮高官と会談したのか?――その舞台裏を読み解く

2016年6月3日(金)17時00分
遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)

6月1日、訪中した北朝鮮高官の李洙墉(左)と会談する習近平 Xinhua/Pang Xinglei/via REUTERS

 6月1日、北朝鮮高官李洙墉(リ・スヨン)氏が習近平総書記と会談した。背後には朴槿恵・韓国大統領の親北朝鮮アフリカ諸国歴訪とそれ以前の米国による中韓蜜月離間および昨年末の日韓外相会談がある。巨大な地殻変動を解読する。

李洙墉氏の言動を追う

 5月31日、北朝鮮の労働党中央委員会副委員長で国際部部長(元外相)の李洙墉氏が訪中した。同日、中国における北朝鮮窓口となっている中共中央対外聯絡部の宋濤部長が対応し、会談を行った。

 6月1日には習近平総書記と会談。

 これは朝鮮労働党と中国共産党との関係なので、中国の外務省が対応せず、中共中央対外聯絡部が対応し、かつ習近平は国家主席としてではなく、中共中央総書記として会ったわけだ。

 李洙墉氏が率いる朝鮮労働党代表団の訪中目的は、朝鮮労働党「第7回党大会」の結果を習近平総書記に報告するという形を取っている。

 習総書記は「これは朝鮮労働党中央委員会が中朝両党と両国関係を重視している証拠だ」として、代表団の訪中を歓迎した。

 李洙墉氏は、金正恩(中央委員会)委員長からの伝言を口頭で習総書記に伝え、金正恩委員長が「中国とともに努力し、中朝の伝統的な友好関係を強化発展させ、朝鮮半島の安定をともに推進していくことを希望している」旨のことを言っていると伝えた。

 習総書記も「中国は中朝友好関係を重視している」と型通りのことを、お愛想笑いを浮かべながら淡々と述べた。

 というのは、中朝関係は非常に悪化しており、特に今年初めの北朝鮮の核実験やミサイル発射に対する国連の制裁決議に中国が賛同するなど、中朝関係は一触即発の状態になっていた。

 そもそも中朝首脳会談は金正恩政権誕生および習近平政権誕生以来、一度たりとも行なわれていない。

 中韓首脳会談は言うに及ばず、日中首脳会談や日韓首脳会談も現政権下で行われている中、中朝首脳会談だけは行われていないというのは異常だ。

 中国建国以来、初めての現象である。

 金正恩氏は習近平政権が最大の敵であるアメリカに媚びて、「新型大国関係」などを米中間で打ち建てようとしていることに激怒していた。ネットには架空の「平壌日報」なるものが現れて、中国を「修正社会主義帝国主義国家」と罵倒し続けている。世界には「アメリカ帝国主義国家」と「中国修正社会主義帝国主義国家」という二大帝国主義国家があると酷評。今年の4月末にも、この罵倒がまたネットに登場したばかりだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

スイス中銀、政策金利ゼロに据え置き 関税の影響を警

ワールド

戦争終結すれば退任する用意、ゼレンスキー大統領が発

ビジネス

H-1Bビザ雇用で情報要請、アマゾンなどに米議員が

ワールド

ウクライナ和平目指すトランプ氏の姿勢変わらず、ロ報
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ハーバードが学ぶ日本企業
特集:ハーバードが学ぶ日本企業
2025年9月30日号(9/24発売)

トヨタ、楽天、総合商社、虎屋......名門経営大学院が日本企業を重視する理由

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の小説が世界で爆売れし、英米の文学賞を席巻...「文学界の異変」が起きた本当の理由
  • 2
    コーチとグッチで明暗 Z世代が変える高級ブランド市場、売上を伸ばす老舗ブランドの戦略は?
  • 3
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ」感染爆発に対抗できる「100年前に忘れられた」治療法とは?
  • 4
    週にたった1回の「抹茶」で入院することに...米女性…
  • 5
    クールジャパン戦略は破綻したのか
  • 6
    【クイズ】ハーバード大学ではない...アメリカの「大…
  • 7
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に.…
  • 8
    トランプの支持率さらに低下──関税が最大の足かせ、…
  • 9
    富裕層のトランプ離れが加速──関税政策で支持率が最…
  • 10
    トランプは「左派のせい」と主張するが...トランプ政…
  • 1
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に...「少々、お控えくださって?」
  • 2
    数千円で買った中古PCが「宝箱」だった...起動して分かった驚きの中身
  • 3
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ」感染爆発に対抗できる「100年前に忘れられた」治療法とは?
  • 4
    「何だこれは...」クルーズ船の客室に出現した「謎の…
  • 5
    筋肉はマシンでは育たない...器械に頼らぬ者だけがた…
  • 6
    【動画あり】トランプがチャールズ英国王の目の前で…
  • 7
    日本の小説が世界で爆売れし、英米の文学賞を席巻...…
  • 8
    コーチとグッチで明暗 Z世代が変える高級ブランド市…
  • 9
    燃え上がる「ロシア最大級の製油所」...ウクライナ軍…
  • 10
    「ミイラはエジプト」はもう古い?...「世界最古のミ…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 6
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に.…
  • 7
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 8
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 9
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
  • 10
    東北で大腸がんが多いのはなぜか――秋田県で死亡率が…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中