最新記事

新冷戦

ロシアがドイツに仕掛けるハイブリッド戦争

2016年6月2日(木)19時00分
ルース・フォーサイス(米シンクタンク大西洋協議会)

Sergei Karpukhin-REUTERS

<ロシアが今、ドイツに揺さぶりをかけている。ウクライナ東部で親ロ派を煽ったときのようにロシア系ドイツ人を煽動し、後にでっち上げとわかったロシア系ドイツ人少女の集団レイプ事件の背後にいたのもロシアだ。ドイツも遅ればせながら対抗策をとり始めた>

 今いくつもの危機に見舞われている欧州大陸にもう一つ、深刻な脅威が浮上している。ロシアが、ドイツを傷つけ不安定化させようと積極的に動いているのだ。

 ロシアのドイツに対する隠密活動は、軍事力と世論操作などの非軍事手段を併せたウラジーミル・プーチン大統領の「ハイブリッド戦争」の一環だ。標的がEU(欧州連合)のリーダーであるドイツだというのは由々しきことだ。内外で数々の安全保障上の脅威に直面している欧州の団結を維持できるのはドイツだけだ。

【参考記事】ドイツとロシアの恋の行方

 ロシアは、ウクライナのクリミア半島を併合した2年前のウクライナ危機の間、ドイツなど欧州諸国でのスパイ活動を強化してきた。ドイツ国内の治安機関である連邦憲法擁護庁(BfV)によると、ロシアは、旧ソ連の秘密警察KGBがかつて用いた破壊活動戦術である「不安定化」と「偽情報」の2つを展開している。

 NATO戦略的通信研究センター(StratCom COE)を指揮するジャニス・サーツによると、ロシアはこうした戦術を使って意図的にドイツの政情不安をかき立てており、その最終目標はアンゲラ・メルケル政権の転覆だという。

政治団体が突如出現

 例えば2016年2月、ドイツの国内諜報機関と国外諜報機関の両トップは、ロシアがドイツに住むロシア人たちの「高い動員可能性」を利用する可能性があると警告した。ロシアは、そうした人々に働きかけて、破壊的な街頭デモを行わせようとしている。

 つい1カ月前には、「ロシア系ドイツ人国際会議」(International Congress of the Russo-Germans)を名乗る団体が、メルケル政権に対するデモを行った。それまで知られていなかった政治団体が突如表れるのは、2014年にウクライナからの分離独立とロシアへの編入を求めるウクライナ東部でロシアが暗躍していたときの状況と似ている。

【参考記事】ドイツが軍縮から軍拡へと舵を切った

 ウクライナにおいてロシアは、世論を計画的に操作し、「ウクライナ政府は国民の利益を保護できない」というロシア側の物語でウクライナ世論を誘導しようとした。ロシアがドイツで同様の扇動活動を行っているのは極めて憂慮すべきことだ。

 ロシアはまた、ドイツ社会にある難民問題をめぐる対立を利用して利用して世論の分断を図っている。移民の流入によって政情は不安定化し治安が悪くなるという話を流布し、政府にはもはや国民の安全を保障する力がないと思わせようとしているのだ。

MAGAZINE

特集:5Gの世界

2019-3・26号(3/19発売)

超高速大容量の通信でネット利用が快適に...... どころで済まない5Gの潜在力と激変する未来の姿

人気ランキング

  • 1

    モデルの乳がんを、レンブラントは意図せず描いた【名画の謎を解く】

  • 2

    完璧としか言いようがない、イチロー選手の引退劇

  • 3

    いじめで「死ななかった子」と親を取材して分かったこと

  • 4

    アフリカの違法エナジードリンク、「6時間たちっぱ…

  • 5

    「虐待が脳を変えてしまう」脳科学者からの目を背け…

  • 6

    500年間誰も気づかなかったダビデ像の「目の秘密」【…

  • 7

    すべてのパソコンをタブレットに変えたら、どれぐら…

  • 8

    JKビジネスを天国と呼ぶ「売春」女子高生たちの生の声

  • 9

    ポモドーロ・テクニック:世界が実践する時間管理術…

  • 10

    「囚人式」コンディショニングが、ビジネスパーソン…

  • 1

    日本の重要性を見失った韓国

  • 2

    モデルの乳がんを、レンブラントは意図せず描いた【名画の謎を解く】

  • 3

    500年間誰も気づかなかったダビデ像の「目の秘密」【名画の謎を解く】

  • 4

    韓国のPM2.5が危機的状況で、比較的空気の綺麗な日本…

  • 5

    「深圳すごい、日本負けた」の嘘──中国の日本人経営…

  • 6

    北斎は幽霊っぽさを出すために子供の頭蓋骨を使った…

  • 7

    地下5キロメートルで「巨大な生物圏」が発見される

  • 8

    日本よ!「反韓・嫌韓」は時間の無駄だ

  • 9

    金正男暗殺実行犯の女性被告1人を釈放・帰国 マレー…

  • 10

    「韓国にまともな民主主義はない」アメリカも抱く誤…

  • 1

    日本の重要性を見失った韓国

  • 2

    家畜のブタが人食いブタに豹変──ロシア

  • 3

    フィンランドで隠し撮りされた「怪物」の悲劇

  • 4

    映画『ボヘミアン・ラプソディ』が語らなかったフレ…

  • 5

    自殺者数、米軍兵力、初任給... 韓国のリアルを10の…

  • 6

    【動画】サメを虐待した金持ち息子に軽すぎる刑

  • 7

    地下5キロメートルで「巨大な生物圏」が発見される

  • 8

    モデルの乳がんを、レンブラントは意図せず描いた【…

  • 9

    韓国のPM2.5が危機的状況で、比較的空気の綺麗な日本…

  • 10

    『ボヘミアン・ラプソディ』を陰で支えた、クイーン…

英会話特集 資産運用特集 グローバル人材を目指す Newsweek 日本版を読みながらグローバルトレンドを学ぶ
日本再発見 シーズン2
NWデジタル編集部ほか求人情報
定期購読
期間限定、アップルNewsstandで30日間の無料トライアル実施中!
メールマガジン登録
売り切れのないDigital版はこちら

MOOK

ニューズウィーク日本版別冊

絶賛発売中!

STORIES ARCHIVE

  • 2019年3月
  • 2019年2月
  • 2019年1月
  • 2018年12月
  • 2018年11月
  • 2018年10月