最新記事

北朝鮮

脱北した美人ウェイトレスの中に「国民的歌手」の娘がいた

2016年5月30日(月)17時33分
高英起(デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト) ※デイリーNKジャパンより転載

親北朝鮮的な在米韓国人が運営するニュースサイト「民族通信」より

<4月に北朝鮮レストランの従業員が集団脱北してニュースとなったが、その後、そのウェイトレスらの名前や顔写真が親北朝鮮メディアにより公開された。このたび、その中に、北の国民的歌手の娘がいたらしいことがわかった>

 去る4月、中国浙江省寧波市の北朝鮮レストラン「柳京食堂」から集団脱北した北朝鮮出身の女性従業員の中に、故金正日総書記から寵愛を受けた「国民的歌手」の娘が含まれているらしいことがわかった。

美貌で人気爆発

 その国民的歌手とは、正日氏から直接見出されたとされるチェ・サムスクさん。そして、彼女の娘とされているのは、脱北した従業員のひとりであるリ・ウンギョンさん(上写真の中段・左から2人目)である。

 脱北した従業員の多くが、北朝鮮のエリート家庭の出身であることはかねて伝えられていた。脱北した女性従業員の家族や親戚たちは、「元々あんなことをする子ではないのに、保衛指導員の監督不行き届きであんなことになってしまった。責任を取るべきは担当当局の方だ」と主張。一般国民にとっては恐怖の象徴であるはずの国家安全保衛部の幹部が、タジタジになっているとの話もある。

 北朝鮮で海外に赴任するウェイトレスらの養成を担っているのは、商業学校や商業専門学校の「奉仕科」という専門コースだが、言うまでもなく「狭き門」であり、幼いときから歌や踊りの英才教育を受けていなければ、選抜は適わないという。

 またそれ以前に、本人の努力だけではどうにもならない、より厳しい条件をクリアしなければいけない。

「親の職業は何であるか」「過去、身内に反体制分子はいなかったか」など、出自や家庭環境を数十種類に分類した「出身成分」――平たく言えば、思想的な意味での「家柄」が良好とみなされなければならないのだ。余談になるが、朝鮮中央テレビなどの女性アナウンサー、いわゆる女子アナになると、ウェイトレス以上に狭き門となる。

(参考記事:北朝鮮「女子アナ」人選にこだわり抜く金正恩氏

 とはいえ、脱北した従業員の中に、チェさんほどの有名歌手の娘がいたとは驚きである。チェさんは20年余りの活動で3000曲以上を歌い、半生が映画化されたこともある。それほどのスターの娘までが脱北したと北朝鮮国内に知られれば、一般国民に与える影響は小さくないだろう。

(参考記事:北朝鮮レストラン「美貌のウェイトレス」が暴く金正恩体制の脆さ

 それと同時に、韓国国内の反応も気になる。ただでさえ、美貌の北朝鮮ウェイトレスは、一部の韓国国民の間でアイドル並みの人気を誇ってきた。

 その上、ウンギョンさんは「北朝鮮芸能界」の裏側まで知っている可能性もあり、色々な意味で関心を持たれることになるのではないだろうか。

[筆者]
高英起(デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト)
北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ――中朝国境滞在記』(新潮社)、『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)、『北朝鮮ポップスの世界』(共著、花伝社)がある。

※当記事は「デイリーNKジャパン」からの転載記事です。
dailynklogo150.jpg

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

インドの卸売物価、11月は前年比-0.32% 下落

ビジネス

日経平均は反落、ハイテク株安い 日銀利上げ観測でT

ビジネス

フジHD、33.3%まで株式買い付けと通知受領 村

ワールド

香港民主派メディア創業者に有罪判決、国安法違反で
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の展望。本当にトンネルは抜けたのか?
  • 2
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジアの宝石」の終焉
  • 3
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 4
    極限の筋力をつくる2つの技術とは?...真の力は「前…
  • 5
    南京事件を描いた映画「南京写真館」を皮肉るスラン…
  • 6
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 7
    トランプが日中の「喧嘩」に口を挟まないもっともな…
  • 8
    大成功の東京デフリンピックが、日本人をこう変えた
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    世界最大の都市ランキング...1位だった「東京」が3位…
  • 1
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 2
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 3
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の脅威」と明記
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 6
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 7
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 8
    人手不足で広がり始めた、非正規から正規雇用へのキ…
  • 9
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 10
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 6
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中