最新記事

中国政治

文革50周年と「フラワーズ56」の怪?――習近平政権に潜むリスク

2016年5月16日(月)16時40分
遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)

 今回の公演は、習近平のその窮地(弱点)を、「誰かが」うまく利用した形になっているように見える。

「習近平讃歌」をまぎれ込ませた

 実は曲目の中には3曲ほど、習近平讃歌が入っている。

 一つ目は「私はあなたを何とお呼びすればいいのでしょうか?」という歌だ。これは2013年11月3日に、習近平国家主席が訪問した湖南省湘西土家族苗族自治州花垣県十八洞村にある極貧層の家庭の様子が中央テレビ局CCTVで放映され、それをもとに創られた習近平讃歌である。

 二つ目は「私は慶豊包子舗にいる」という歌で、習近平が国家主席になってから、「庶民とともにいる」ことを演出しようとして北京にある慶豊包子舗という老舗の肉まん屋さんで庶民とともに肉まんを食べたことがある。それはかつて毛沢東が国家主席になってまもなく、路上で肉まんを蒸かして売っている老人と話し合っている写真を、習近平が毛沢東記念館で見つけたからだ。その真似をしたのである。

 三つ目は、必ずしも習近平個人礼賛ではなく、どちらかというと習近平政権のスローガンの一つ「中国の夢」を礼賛したもので、「中国の夢は最も美しい」という曲だ。

 ほかにも習近平国家主席の妻である彭麗媛夫人のかつてのヒット曲「希望の田野の中で」(1982年)なども曲目の中にある。

「習近平を礼賛して何が悪いのか?」という、非常に細かく計算された演出の中で、誰かが文革礼賛を織り込んだのだろうというのが、中国政府関係者のおおかたの見解だ。

 問題は、いったい誰が、このようなことを仕組んだのかということである。

主催者側にはない主催団体名が......

 最も奇々怪々なのは、この講演の主催者は「中国歌劇舞劇院」で、「北京市西城区文化委員会」に人民大会堂で公演をする申請書を提出している(4月7日に批准=許可)。だというのに、実際に公演してみたら、突如、主催団体も許可組織も承知していない主催者団体名が入っていたのだ。

 紛れ込んでいた主催者団体の名前は、なんと「中央宣伝部社会主義核心価値観宣伝教育弁公室」というものである。中宣部、すなわち中共中央宣伝部の下部団体の名前が入っていたことになる。

 しかも「演出」担当という役割で飛び入りしている。

 激怒した「北京市西城区文化委員会」は5月6日に「申請者側は規定に反して、申請時になかった虚構の"中央宣伝部社会主義核心価値観宣伝教育弁公室"を主催団体に付け加えた。これに関して、法に基づいて厳重に調査する」という公開状をネットで公開した。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米EV税控除、一部重要鉱物要件の導入2年延期

ワールド

S&P、トルコの格付け「B+」に引き上げ 政策の連

ビジネス

ドットチャート改善必要、市場との対話に不十分=シカ

ビジネス

NY連銀総裁、2%物価目標「極めて重要」 サマーズ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 2

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS攻撃「直撃の瞬間」映像をウクライナ側が公開

  • 3

    サプリ常用は要注意、健康的な睡眠を助ける「就寝前の適切な習慣」とは?

  • 4

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 5

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 6

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 7

    「TSMC創業者」モリス・チャンが、IBM工場の買収を視…

  • 8

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 9

    元ファーストレディの「知っている人」発言...メーガ…

  • 10

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 6

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 7

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 8

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 9

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 10

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中