最新記事

中国

歴史を反省せずに50年、習近平の文化大革命が始まった

2016年5月19日(木)15時27分
楊海英(本誌コラムニスト)

 注目すべきは内陸部の重慶市にある紅衛兵墓園が閉鎖されたことだ。67年を中心に現地で繰り広げられた武闘による死者400人余りが眠る。習政権はここが聖地化されるのを恐れている。紅衛兵は文革初期の66年初夏に誕生した当初、習と同じく高級幹部の子弟ばかりから成っていた。今や太子党として政財界に大きな影響力を持つ彼らが紅衛兵として殺人を繰り返し、文化財を破壊し、孔子の墓を暴いた。

 やがて彼らの父親たちが毛によって粛清されたのを受けて退潮。紅衛兵は次第に「造反派」と呼ばれる庶民の子供が占めるようになった。重慶で多くの死者が出たのもこの頃だ。

 文革終息後、悪事の責任はすべて造反派に転嫁され、太子党は権力を掌握した。重慶の墓地に詣でれば、そうした政治的な不公平は一目瞭然のため、政府は警戒を強めている。

 習政権は国民に対し文革の研究と記憶を抑圧する一方、政治運営は文革期に逆戻りしている。今月初めの党機関紙・人民日報に、習が1月に行った演説が掲載された。「共産党内に野心家や陰謀家がいる。わが党の基盤を内側からむしばみ、見過ごすことはできない」という表現は、五一六通知の「眠れるフルシチョフ」を彷彿させる。

 習政権の強引な政治手法や個人崇拝の推進、国民への抑圧は世界から指摘されている。今年1月に習の意をくむ査察団「巡視組」を政府直営の研究機関、中国社会科学院に派遣。「西側からの誤った言論と思想を伝播してはならない」と通達した。

【参考記事】文革を語った温家宝の狙い

 文革で副首相の座を追われた習の父仲勲(チョンシュン)は、文革の原因は毛個人への極端な権力の集中が一因だと話していた。今は天国で息子のことを嘆き悲しんでいるに違いない。

[2016年5月24日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

日銀、政策金利を現状維持:識者はこうみる

ワールド

ウクライナ南部オデーサに無人機攻撃、2人死亡・15

ビジネス

見通し実現なら利上げ、不確実性高く2%実現の確度で

ワールド

米下院、カリフォルニア州の環境規制承認取り消し法案
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 5
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 6
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 7
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 8
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 9
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 10
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 7
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 8
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 9
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 10
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中