最新記事

中国経済

人民元が貿易相手国通貨に対して下落、アジア諸国と今後火種に

対ドルで横ばいを維持しつつ、アジアの貿易相手国通貨への人民元安を続ける中国

2016年3月27日(日)20時18分

3月23日、中国の通貨、人民元の相場は2016年に入って徐々に下落しているが、この事実はあまり気付かれていない。写真は北京で2日撮影(2016年 ロイター/Damir Sagolj)

 中国の通貨、人民元の相場は2016年に入って徐々に下落しているが、この事実はあまり気付かれていない。それは、人民元が下落しているのは貿易相手国通貨に対してであり、ドルに対してではないからだ。

 新興国通貨は2016年、幅広く上昇。米連邦準備理事会(FRB)が利上げペースを落とすとの見方が強まりドルが弱含んだ1月末以降、新興国通貨の上昇が加速した。人民元は今年、対ドルで横ばいだ。

 ところが人民元相場は今年、名目実効為替レート(NEER)、もしくは貿易加重で見ると、およそ3%も下落している。一方、ほかの新興国通貨は、大半がこの貿易加重ベースで上昇しており、ロシア・ルーブルなど一部の新興国通貨は、貿易加重の上昇率が7%近くにまで達している。

 ゴールドマン・サックスの新興市場調査担当マネジングディレクター、カマクシャ・トリベディ氏は「(人民元は)今年、貿易加重ベースで最も下落した通貨の1つだ。あまり気付かれていないが、中国はこの機会を利用して元を下落させ続けており、注目に値する」と述べた。

人民元、貿易相手国通貨に対して3%近く下落

 貿易加重ベースでの人民元安は、他のアジアや新興国にとって懸念要因になる可能性がある。中国との貿易量が多いのは、米国とドイツに次いで、日本、豪州、香港、マレーシア、台湾、ブラジル、ロシアだ。

 しかし、人民元の下落が通貨安競争への警戒感を引き起こした昨年とは違い、このたびの下落については、他国はあまり反応していない。

 UBSのストラテジスト、マニク・ナライン氏は「市場は人民元の対ドル基準値にとらわれている。一方で中国は、市場を動揺させたり、資本流出を加速させることなく、通貨安を達成している」と指摘した。

 ナライン氏は、人民元の下落が続けば、中国のアジアの貿易相手国は警戒感を強めるだろうと指摘。アジア諸国は対抗策として、介入や利下げを通じて、自国通貨の上昇を抑制しようとするとの見方を示した。

 *新興国通貨の貿易加重、および対ドルでの変動率は以下の通り。

 (Sujata Rao記者、Vincent Flasseur記者 翻訳:吉川彩 編集:吉瀬邦彦)

[ロンドン 23日 ロイター]

120x28 Reuters.gif
Copyright (C) 2016トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

米、中国に関税交渉を打診 国営メディア報道

ワールド

英4月製造業PMI改定値は45.4、米関税懸念で輸

ビジネス

日銀、政策金利を現状維持:識者はこうみる

ワールド

韓国最高裁、李在明氏の無罪判決破棄 大統領選出馬資
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 5
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 6
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 7
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 8
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 9
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 10
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 7
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 8
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 9
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 10
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中