最新記事

旧ユーゴスラビア

イスラム系大虐殺の大物戦犯に禁錮40年

「民族浄化」を掲げてジェノサイドを命じた指導者に有罪判決、その歴史的教訓は

2016年3月25日(金)17時30分
スタブ・ジブ

無数の犠牲 判決を前に法廷で犠牲者の写真を掲げるボスニアの人たち Michael Kooren-REUTERS

 ボスニア・ヘルツェゴビナ紛争(1992~95)の終結から20年以上の年月を経て、旧ユーゴスラビア国際戦犯法廷は今週、ボスニア領内のセルビア系指導者だったラドバン・カラジッチに禁錮40年の判決を言い渡した。

 カラジッチは、内戦終結後10年以上に渡って姿を隠し、司法当局の捜査から逃れていた。08年に身柄を拘束され、「民族浄化」の名の下に約8000人のイスラム教徒らを殺害した「スレブレニツァ虐殺」の計画・命令をはじめ、虐殺2件、人道上の犯罪5件、戦争法規違反4件――殺人、テロ、市民への違法な攻撃、拉致などの罪に問われていた。

【参考記事】旧ユーゴスラビア訪問雑記(その1)
【参考記事】旧ユーゴスラビア訪問雑記(その2)

 今週法廷は、スレブレニツァ虐殺などカラジッチが問われた11の戦争犯罪のうち10について有罪と認め、禁錮40年の判決を言い渡した。クォン・オゴン裁判長は、カラジッチが08年の身柄拘束以来、これまで拘禁されていた期間を、今回の禁錮刑に含むと説明した。

webw160325-02.jpg
95年9月に撮影されたカラジッチ。当時はボスニアのセルビア軍の最高司令官を務めていた STR New-REUTERS

ナショナリズムを煽る欧米の政治家たちへの警鐘

「判決は、国際社会に忍耐強くこの事件の責任を問う強い意思があることを示している」と、ゼイド・ラアド・アルフセイン国連人権高等弁務官は判決後の声明で述べている。「カラジッチは、多くの人々の監禁、強姦、拷問、殺人の他、非戦闘員に対する砲撃、サラエボの襲撃、イスラム教やカトリックの宗教施設を含む多くの施設に対する広範な破壊と略奪の黒幕だった」

 ゼイドは、94~96年にかけて旧ユーゴスラビアの国連保護軍に参加していた。「今回の判決は、とりわけボスニア・ヘルツェゴビナ紛争と旧ユーゴスラビアの戦争犯罪の犠牲者にとって象徴的な意味を持つが、世界中の戦争犯罪の被害者にとっても大きな意味がある」と、ゼイドは続けている。「戦争犯罪の加害者は、どれだけ強大な権力を持とうとも、どれだけ司法の手は及ばないと思っても、どの大陸に暮らしていようとも、正義から逃れることはできないことを知るだろう。カラジッチの有罪が認められた恐ろしい犯罪の数々を直接目撃した者として、この判決を評価する」

【参考記事】血塗られたキリスト教徒狩りが始まった

 さらにゼイドは、この判決が「社会問題から目を逸らすために、世論のナショナリズムを煽り、少数派を迫害しようとするヨーロッパやその他の政治家たちへの警鐘となる」と述べている。「憎悪や差別感情、暴力を喚起する言論は、炎上しやすく極めて危険だ。旧ユーゴスラビアの国々でそれが最悪の流血の事態を引き起こしたのを、我々は目撃した」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

タイとカンボジアが攻撃停止で合意、トランプ氏が両国

ビジネス

FRB現行策で物価目標達成可能、労働市場が主要懸念

ワールド

トルコ大統領、プーチン氏に限定停戦案示唆 エネ施設

ワールド

EU、来年7月から少額小包に関税3ユーロ賦課 中国
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の脅威」と明記
  • 2
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 3
    受け入れ難い和平案、迫られる軍備拡張──ウクライナの選択肢は「一つ」
  • 4
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 5
    【揺らぐ中国、攻めの高市】柯隆氏「台湾騒動は高市…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    首や手足、胴を切断...ツタンカーメンのミイラ調査開…
  • 8
    「前を閉めてくれ...」F1観戦モデルの「超密着コーデ…
  • 9
    人手不足で広がり始めた、非正規から正規雇用へのキ…
  • 10
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 4
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 5
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 6
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 7
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 8
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 9
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 10
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中