最新記事

カナダ

「難民受け入れます(ただし独身男性を除く)」の波紋

難民2万5000人を受け入れるというカナダのトルドー新首相の政策は一見寛容だが

2015年11月25日(水)15時31分
ディプロ・ファロイン

テロ対策 独身男性は難民の対象から除外する?(カナダのトルドー首相) Chris Wattie- REUTERS

 カナダ新首相のジャスティン・トルドーは24日、当初の計画どおり、カナダは2万5000人のシリア難民を受け入れ、定住させると発表した。ただし、今年末までとしていた計画履行の期限は2016年2月に延期する。

 CBC(カナダ国営放送)ニュースは以前、カナダは家族連れと独身女性、子供しか受け入れないことになるという匿名の情報を引き合いに、難民擁護派の懸念を伝えていた。独身男性は安全保障上のリスクが高すぎるという考えによる選別だ。

 ただしゲイの独身男性は難民として受け入れるという。ある政府高官によれば、ゲイの男性はISIS(自称イスラム国、別名ISIL)の戦闘員による攻撃を受けやすいからだという。

 CBCニュースによれば、カナダ当局はすでにレバノンで1日に100人の難民を審査・選別し、難民定住の処理を始めている。

 11月13日のパリ同時多発テロでは、130人が犠牲となり、ISISが犯行声明を出した。それ以来カナダでは、2万5000人ものシリア難民を受け入れるという政府の計画に対し、危険な過激派が入国しやすくなると、計画の撤回を求める声が多数に上っていた。

 しかしトルドーは、世論の反対にも関わらず、パリのテロ後、記者たちにこう述べている。「パリでの悲劇があって突然、安全の重要性を実感したわけではない。それはずっと以前からわかっていることだ。我々はこの人道危機において責任をもって正しい行いをすると共に、国民の安全保持に全力で取り組み続ける」

「難民はテロリスト」の間違い

 ただし、難民受け入れにおける独身男性の排除は、国民の不安を和らげる効果はあったとしても、実際には効果はなく、また不必要でもあると言う専門家もいる。

「安全保障上の懸念を軽減するには、審査プロセスを何重にもするだけで十分だ」と、バンクーバーの国際安全保障アナリスト、ブノワ・ゴミスは本誌の取材にメールで答えた。それで十分だと思えない場合も、「独身男性の難民をすべて排除するより、受け入れのプロセスを引き延ばすほうが効果的だ」とゴミスは言う。

 ゴミスによれば、難民が非難民よりも安全保障上のリスクが高いという証拠はない。「移民政策研究所(ワシントン)は最近、2001年の9.11テロ以降にアメリカに定住した78万4000人の難民のうち、テロ容疑で逮捕されたのは3人だけ(しかも、アメリカ国外へのテロ攻撃を計画した容疑だった)だと指摘している」とゴミス。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

バイデン大統領、マイクロンへの補助金発表へ 最大6

ワールド

米国務長官、上海市トップと会談 「公平な競争の場を

ビジネス

英バークレイズ、第1四半期は12%減益 トレーディ

ビジネス

ECB、賃金やサービスインフレを注視=シュナーベル
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴らす「おばけタンパク質」の正体とは?

  • 3

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗衣氏への名誉棄損に対する賠償命令

  • 4

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 5

    マイナス金利の解除でも、円安が止まらない「当然」…

  • 6

    ワニが16歳少年を襲い殺害...遺体発見の「おぞましい…

  • 7

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負け…

  • 10

    ケイティ・ペリーの「尻がまる見え」ドレスに批判殺…

  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 5

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 9

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中