最新記事

テロ

女の自爆が西欧にとって大問題なわけ

ISISが女性戦闘員を送り込み始めたのだとしたら、ヨーロッパはテロに対してより無防備になる

2015年11月19日(木)16時28分
ジャック・ムーア

新たな脅威 強制捜査で踏み込んだパリ郊外のアパートにいたのは、腹に爆弾を巻き付けた女だった Christian Hartmann-Reuters

 フランスの治安当局は昨日未明、週末の同時多発テロの首謀者の潜伏先とみられるパリ郊外のサンドニのアパートを強制捜査した。このとき現場にいた女1人が自爆したが、テロ対策専門家によると、西ヨーロッパで女性が自爆したのはこれが初めて。

 AFPによれば、捜査の目的はフランス史上最悪のテロを計画したとみられるアブデルハミド・アバウド容疑者の逮捕だった。アバウドが現場にいたかは不明で、自爆した女の身元もまだ特定されていない。現場にいた一味はテロ組織ISIS(自称イスラム国、別名ISIL)と関係があったとみられる。

 イギリスの危機管理コンサルティング会社、リスク・アドバイザリー・グループの「テロ追跡」データベースには、07年1月以降に西ヨーロッパで起きたテロのデータが入っているが、女性の自爆テロは1件も記録されていない。

 それ以前にも西ヨーロッパの10カ国では、女性の自爆テロは起きていない。

 同社の調査スタッフ、アンドルー・マジョランは、テロ組織が西ヨーロッパで新手の戦術を使い始めた兆候として今回のケースに注目している。自爆した女は新たなテロ攻撃の準備をしていた可能性があるという。

 地政学的リスクの分析を専門とする英コンサルティング会社、ベリスク・メープルクロフトの記録もこうした見方を裏付ける。

 同社のヨーロッパ担当責任者フロリアン・オットーによると、ISIS関連組織がパリ在住の女性メンバーに自爆テロを指示したことは、ヨーロッパにおけるテロの脅威が一段と増したことを意味する。ISISやヌスラ戦線などのイスラム過激派に加わるために中東に渡ったヨーロッパ人女性はかなりの数にのぼるからだ。「たとえばシリアに向かったドイツ人およそ750人のうち、110人は女性とみられている」

 テルアビブに本拠を置く危機管理コンサルティング会社、レバンティン・グループのマイケル・ホロウィッツも警戒する。「(女の自爆は)フランスではこれが初めてで、極めて異常なケースだ」

衝撃を最大限にする戦略資源として

 世界の他の地域では、女性の自爆テロは珍しくない。東ヨーロッパ、アジア、中東、アフリカでは、反政府組織が数十年前からショック戦術として、また戦略的な資源として、女性を自爆テロに駆り出してきた。10年3月にモスクワの地下鉄で起きたテロでは、女の犯人2人が2つの駅で自爆し、40人近い死者が出た。

 レバノンでは80年代に左派のアラブ民族主義組織が盛んに女性メンバーを自爆テロに利用。ロシア連邦のチェチェン共和国でも、分離独立派が2000年以降、紛争で夫や兄弟を失った女性たち、いわゆる「黒い未亡人」を自爆テロ要員に仕立ててきた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ECB、原油高リスクシナリオ下で27年インフレ率4

ワールド

日米首脳が会談、中東情勢が最大の焦点に 経済・防衛

ビジネス

米新規失業保険申請、8000件減の20.5万件 労

ワールド

米はイランガス田攻撃を認識、トランプ氏否定も=イス
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:イラン革命防衛隊
特集:イラン革命防衛隊
2026年3月24日号(3/17発売)

イスラム神権国家を裏からコントロールする謎の軍隊の歴史と知られざる実力

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え時の装いが話題――「ファッション外交」に注目
  • 2
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期スペイン女王は空軍で訓練中、問われる「軍を知る君主」
  • 3
    韓国製ミサイル天弓-II、イラン戦争で96%迎撃の衝撃 ──「成功」が招く自国防衛の弱体化
  • 4
    第6回大会を終えて曲がり角に来たWBC
  • 5
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 6
    原油高騰よりも米国経済・米株市場の行方を左右する…
  • 7
    【衛星画像】イラン情勢緊迫、米強襲揚陸艦「トリポ…
  • 8
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する…
  • 9
    トランプ暴走の余波で加熱するW杯「ボイコット論」..…
  • 10
    アメリカはまた「壊した後」を考えていない...イラク…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期スペイン女王は空軍で訓練中、問われる「軍を知る君主」
  • 3
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が発生し既に死者も、感染源は「ナイトクラブ」
  • 4
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
  • 5
    第6回大会を終えて曲がり角に来たWBC
  • 6
    【衛星画像】イラン情勢緊迫、米強襲揚陸艦「トリポ…
  • 7
    ズボンを穿き忘れてる! 米セレブ、下を穿かず「目の…
  • 8
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
  • 9
    住宅建設予定地に眠っていた「大量の埋蔵金」...現在…
  • 10
    「ネタニヤフの指が6本」はなぜ死亡説につながったの…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 3
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 4
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 5
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
  • 6
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 7
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 8
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 9
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 10
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中