最新記事

欧州

モノ扱いされる難民の経済原理

密航ビジネスの論理は普通のビジネスと同じ。悲劇的な死をなくすためには密航需要を減らすのが肝心だ

2015年10月9日(金)16時30分
ウィリアム・サレタン

新天地へ ヨーロッパを目指すシリア人の難民・移民を乗せてギリシャの港に到着した船(9月) Paul HANNA-REUTERS

 トルコの海岸に打ち上げられた幼い男の子の遺体。地中海で何百人もの人を乗せて転覆した船。オーストリアの道端に放置されたトラックの中で腐敗していた71人の遺体。

 ヨーロッパを揺るがしている難民危機のニュースを聞くと、私たちは胸が痛む。そして、誰かを非難せずにいられなくなる。EU(欧州連合)のドナルド・トゥスク大統領は、密航業者をやり玉に挙げ、「人殺したち」と呼んだ。

 密航業者を非難すれば、私たちの道徳心は満足するだろう。しかし、いま起きている問題の実態を説明したことにはまったくならない。

 悲劇を終わらせたければ、問題の本質を理解する必要がある。そのためには、8月に71人の遺体を乗せたトラックがオーストリアの道端に放置されていた事件で、トラックの車体に描かれていたロゴマークに注目すればいい。それは、ある鶏肉業者のロゴだった。71人は、肉を運搬する冷凍トラックの気密性の高い冷凍庫の中で死亡し、腐敗していたのだ。

 密航・密入国の請負は、品物の密輸と同じように1つのビジネスだ。密輸される品物も、密航・密入国者として運ばれる人間も、いずれも隠されて、狭い場所に押し込まれて運搬される。コストは最小限に抑えられ、問題が生じれば途中で放置される。これは、冷徹なビジネス上の計算が生む結果だ。

 この点に目を向ければ、悲劇をなくすための道筋が見えてくるかもしれない。密航業者の行動を経済行為と位置付けて対策を打てばいい。

 いまヨーロッパに大量の難民・移民が流入しているのは、経済のグローバル化の1つの表れとみることができる。経済的な理由にせよ政治的な理由にせよ、いま暮らしている場所が耐え難い人は、どこに行けばもっといい生活ができ、どうすればその土地に行けるかという情報を得やすくなった。

 自国での悲惨な生活から逃げ出したいというシリアやアフガニスタン、西アフリカなどの人々の思いは極めて強く、しかもドイツなどの暮らしはあまりに魅力的だ。地中海での溺死、トラック内での窒息死、砂漠での遭難といった悲劇はよく知られていても、密航を試みる人は一向に減らない。

 結果として、密航ビジネスの市場は業者側が有利になっている。そのため、密航料金が跳ね上がる一方で、サービスの質はまったく改善していない。

低料金の密航者は船倉に

 密航業者は、一般の旅行業者と同じように、さまざまな価格帯のサービスを用意している。1万ドル以上支払えば、ドイツやスウェーデンに飛行機で直行できる。もう少し安い料金でも、ヨットで地中海を渡り、その後の旅でも快適なホテルに泊まれるだろう。そして何より、料金を第三者に寄託し、無事に目的地に着くまで業者に金が渡らないようにすることができる。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

最近の急速なウォン安・円安、深刻な懸念共有=日韓対

ワールド

米戦略石油備蓄の第1弾、来週末までに供給 8600

ビジネス

日立とGEベルノバ、東南アジアで小型モジュール炉導

ワールド

米商務省、AI半導体輸出の新規則案を撤回 公表から
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのミュージカル入門
特集:教養としてのミュージカル入門
2026年3月17日号(3/10発売)

社会と時代を鮮烈に描き出すミュージカル。意外にポリティカルなエンタメの「魔力」を学ぶ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製をモデルにした米国製ドローンを投入
  • 2
    有人機の「盾」となる使い捨て無人機...空の戦いに革命をもたらす「新世代ドローン」とは?
  • 3
    イラン攻撃のさなか、トランプが行った「執務室の祈祷」を中国がミーム化...パロディ動画が拡散中
  • 4
    「映画賞の世界は、はっきり言って地獄だ」――ショー…
  • 5
    ファラオが眠る王家の谷に残されていた「インド系言…
  • 6
    ショーン・ペンは黙らない――「ウクライナへの裏切り…
  • 7
    ホルムズ封鎖で中国動く、イランと直接協議へ
  • 8
    機内で「人生最悪」の経験をした女性客...後ろの客の…
  • 9
    世界の視線は中東から日本へ...企業主導で築くインド…
  • 10
    『ある日、家族が死刑囚になって』を考えるヒントに…
  • 1
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 2
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 3
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」と言われる外国特派員の私が思うこと
  • 4
    「このままよりはマシだ」――なぜイランで米軍の攻撃…
  • 5
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
  • 6
    職業別の収入に大変動......タクシー運転手・自動車…
  • 7
    キャサリン皇太子妃、英連邦デー式典に出席...公開さ…
  • 8
    ショーン・ペンは黙らない――「ウクライナへの裏切り…
  • 9
    世界の視線は中東から日本へ...企業主導で築くインド…
  • 10
    40年以上ぶり...イスラエル戦闘機「F-35I」が、イラ…
  • 1
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 2
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 3
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 4
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 5
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 6
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 7
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 8
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
  • 9
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く…
  • 10
    「罠に嵌められた」と主張するが...欧州で次々と摘発…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中