最新記事

人道問題

ロシアがシリアの病院複数を空爆

アサド軍の樽爆弾にロシアの空爆が加わり、シリアの医療施設は壊滅状態

2015年10月8日(木)17時00分
ルーシー・ウェストコット

介入するな 在米ロシア領事館前でシリア空爆に抗議するシリア系アメリカ人 Lucy Nicholson-Reuters

 戦場で爆撃を受けたのはアフガニスタンの「国境なき医師団」の病院だけではない。ロシアのシリア空爆で、2日間に3カ所の医療施設が被害を受けたと、ニューヨークに本部を置く国際NGO「人権のための医師団」(PHR)が6日に報告した。これは戦争犯罪に当たると、PHRは糾弾している。

 PHRによると、シリアの医療施設は2011年の内戦開始以降、同国のバシャル・アサド大統領指揮下の政府軍の攻撃にさらされてきた。ロシアが空爆を開始したことで、「悲惨な状況がさらに悪化した」と、PHRは訴えている。ロシア国防省は、アサド政権の要請を受けて、テロ組織ISIS(自称イスラム国、別名ISIL)掃討のために空爆を実施したと発表している。しかしPHRによると、ロシアの戦闘機が攻撃した3カ所の医療施設はいずれも最も近いISIS支配地域から45キロ以上離れている。

「シリア政府軍は過去4年間、国内の医療施設を容赦なく攻撃してきた。今やロシアがそれに加わった」と、PHRのウィドニー・ブラウンは怒りもあらわに次のように語った。

アサド政権と同じ人道無視

「こうした攻撃にはどんな言い訳も通用しない。国際人道法には医療従事者・施設を攻撃してはならないという規定がある。どの国であれ、テロとの戦いを口実にこのルールを破ることは許されない。ロシアは空爆で病院に損害を与え、患者と医療スタッフを危険にさらし、市民が医療にアクセスできず、救命措置を受けられない状況にしている」

 PHRによると、ハマ県北部のラタムネの野戦病院が2日の空爆で被害を受け、スタッフが負傷した。この病院は過去にもシリア政府軍の樽爆弾の標的になったことがある。2日にはイドリブ県ベニンの中心部にある救急車の基地と救急対応センターが攻撃を受け、3日にはトルコとの国境地帯の都市ラタキアのアルブルナス病院も攻撃された。ここはこの地域では産婦人科がある唯一の病院だが、大半のスタッフは避難し、現在はごく限られた救急処置しか行っていないという。

 シリアの医療施設は8月に「過去最多の攻撃」を受けたと、PHRは報告している。報告によると、11年3月から今年8月までに、225カ所の医療施設が307回の攻撃を受け、670人の医療従事者が死亡。攻撃の90%はシリア政府軍によるものだと、PHRはみている。

 ロシアは医療施設を空爆したことは認めていないが、被害があったとされる3つの地点を攻撃したことは認めていると、PHRは述べている。欧米各国の指導者は、ロシアの空爆はISISに対象を絞ったものではなく、アサド政権に抵抗する反政府派が標的にされていると主張し、懸念を表明している。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米PCE価格指数、インフレ率の緩やかな上昇示す 個

ワールド

「トランプ氏と喜んで討議」、バイデン氏が討論会に意

ワールド

国際刑事裁の決定、イスラエルの行動に影響せず=ネタ

ワールド

ロシア中銀、金利16%に据え置き インフレ率は年内
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された米女優、「過激衣装」写真での切り返しに称賛集まる

  • 3

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」──米国防総省

  • 4

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 5

    アカデミー賞監督の「英語スピーチ格差」を考える

  • 6

    大谷選手は被害者だけど「失格」...日本人の弱点は「…

  • 7

    今だからこそ観るべき? インバウンドで増えるK-POP…

  • 8

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 9

    「性的」批判を一蹴 ローリング・ストーンズMVで妖…

  • 10

    「鳥山明ワールド」は永遠に...世界を魅了した漫画家…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 10

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 3

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈する動画...「吹き飛ばされた」と遺族(ロシア報道)

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中