最新記事

ロシア

プーチン大帝と共にロシアは沈む?

この男の冒険回帰は、泥沼のウクライナ内戦と悲惨な経済状態を覆い隠すためのパフォーマンスかも

2015年8月27日(木)16時40分
ジョシュア・キーティング

タフガイ 昨年ロシアが併合したクリミア半島の沖で潜水艇に乗るプーチン Ria Novosti-REUTERS

 久しぶりにあの彼が戻ってきた、と感じさせる光景だった。

 先週、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は小型潜水艦に乗り込み、海底に沈んだ10世紀頃の貿易船を視察した。場所は、ロシアが昨年併合したウクライナ南部クリミア半島沖の黒海。自身のタフガイぶりと、クリミアがロシア領土であることを誇示したかったのだろう。

 こうした冒険はプーチンの得意業。だが3年前、ツルを野生に返す訓練でハンググライダーを操縦したときにけがをした噂が出て、不本意ながら加齢が注目された。海底遺跡で古代ギリシャの壺を「大発見」したときは、やらせが発覚して恥をかいた。そのためしばらくパフォーマンスは封印していたが、またやってみようと考えたようだ。

 ロシアは09年以来、深刻な不況に苦しむ。現在ルーブルは対ドルで6カ月ぶりの安値にあり、経済の立て直しには大幅な構造改革が必要だと専門家らは言う。問題は原油価格の下落だ。ロシアは国家歳入の約半分を原油・天然ガスが占めるが、昨年夏に1バレル=115ドルだった油価が、今は40ドル台に落ち込んでいる。

 ウクライナ紛争を機に欧米から科された経済制裁の影響も大きい。さらに報復として欧米食品の輸入規制をしたため物価が上昇、国民生活は打撃を受けた。

 それでもクリミアやウクライナ東部への軍事介入が国内では評価され、プーチンの支持率は下がっていない。だが将来の見通しはあまり明るくない。

 ウクライナ東部では軍事的な膠着状態が続き、先週は親ロシア派とウクライナ軍の戦闘で少なくとも9人が死亡した。

 潜水艦でいくら冒険をしても、惨憺たる経済状況は変わらない。行き詰まったプーチンが、国際社会に向けてさらに挑戦的な態度に出たり、新たな土地の強奪に乗り出す可能性もある。例えば、北極などが危ない。

© 2015, Slate

[2015年9月 1日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

英財務相、予算案巡り誤解招いたとの批判退ける 野党

ワールド

トランプ氏、ホンジュラス前大統領を恩赦へ 麻薬密売

ワールド

OPECプラスが生産量据え置きを決定、27年以降の

ビジネス

野村HD、豪マッコーリーの米欧資産運用部門買収を完
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ガザの叫びを聞け
特集:ガザの叫びを聞け
2025年12月 2日号(11/26発売)

「天井なき監獄」を生きるパレスチナ自治区ガザの若者たちが世界に向けて発信した10年の記録

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業界を様変わりさせたのは生成AIブームの大波
  • 2
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体を東大教授が解明? 「人類が見るのは初めて」
  • 3
    メーガン妃の写真が「ダイアナ妃のコスプレ」だと批判殺到...「悪意あるパクリ」か「言いがかり」か
  • 4
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 5
    「世界で最も平等な国」ノルウェーを支える「富裕税…
  • 6
    コンセントが足りない!...パナソニックが「四隅配置…
  • 7
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 8
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 9
    中国の「かんしゃく外交」に日本は屈するな──冷静に…
  • 10
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 3
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファール勢ぞろい ウクライナ空軍は戦闘機の「見本市」状態
  • 4
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 5
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体…
  • 6
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 7
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 8
    老後資金は「ためる」より「使う」へ──50代からの後…
  • 9
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 10
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 9
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中