最新記事

中国

中央アジア諸国のいいカモになる「西進」中国

日米同盟に阻まれて方向転換したものの、「シルクロード」開発のコストも計り知れない

2015年5月20日(水)12時56分
河東哲夫(本誌コラムニスト)

海千山千 中国マネーに沸く中央アジア(カザフスタン) Shamil Zhumatov-REUTERS

 中国は近年、尖閣諸島や南シナ海をめぐって海軍国になる構えを示してきた。中国が歴史的に大海軍を持ったことはまれで、対外政策の中心となる主たる脅威は北部、西域の遊牧民だった。

 現代の中国は台湾問題を抱える。台湾を武力制覇するためには米艦隊を破らねばならず、日本の南西諸島を越えて太平洋に進出できる海・空軍力を持たねばならない。さらには原油の通り道、南シナ海で制海権を確保しなければならない。

 だから中国は東向きの政策を取ってきたが、日米同盟が堅固で太平洋に展開することは難しく、南シナ海でも米豪の潜水艦に対抗する力はない。中国の輸出先の16・7%はアメリカ、11%はASEAN、6・8%は日本で、これらの国と摩擦を生む「東進」は得策ではない。

 中国経済は成長率が落ちている。道路や鉄道を次々に建設することで経済を支えてきたが、国内の金融は今、絞り気味。地方に林立する第三セクターの融資公社は多額の不良債権を、地方当局が争って拡張してきた工場は過剰在庫と赤字を抱える。

 一方、「西の海」ともいうべき広大なユーラシアには莫大なインフラ需要が眠る。中国はこれまでも低利融資の大攻勢で道路やトンネル、天然ガス・パイプラインを建設し、アフガニスタンでは銅鉱山利権を取得。各国は中国マネーに沸いている。

 中国は得意の四文字熟語で「一帯一路」と銘打ち、「シルクロード経済圏」建設を国家戦略とした。官僚や企業にとっては、これで予算を大いに引き出し国外で事業ができる。作業は中国人、資材も建機も中国製だから、中国の公共事業を外国でやるようなもの。陸軍や空軍もこれで予算がもっと取れると思っていることだろう。これまで「東進」で予算を面白いように使ってきた海軍は、「海のシルクロード」を名目に予算を狙うことになる。

 中国は財政省、商務省、中国人民銀行(中央銀行)、国家開発銀行が競い合うように外国に無利子・低利子長期融資を行い、総額は世界でも6位の援助大国に相当する。既に人民銀行が「シルクロード基金」を資本金400億ドルで昨年末設立。財政省もアジアインフラ投資銀行(AIIB)によって融資競争に一層参入しようとする。中国とEUを結ぶ鉄道やハイウエーのプロジェクトは林立し、国境を接するパキスタンを通ってペルシャ湾方面に出るための「カラコルム・ハイウエー」も整備されるだろう。

 ただユーラシアは昔から、海千山千の諸民族がうごめく。「東進」ほどでなくとも、「西進」もコストをもたらすだろう。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

欧州の洋上風力大手2社、欧州各国に政策の改善要請

ビジネス

米ロビンフッド、第3四半期利益は予想超え 個人投資

ビジネス

米スターバックス労組、バリスタの無期限ストを承認

ビジネス

アルゼンチン向け民間融資、必要ない可能性=JPモル
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 2
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 3
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイロットが撮影した「幻想的な光景」がSNSで話題に
  • 4
    NY市長に「社会主義」候補当選、マムダニ・ショック…
  • 5
    「なんだコイツ!」網戸の工事中に「まさかの巨大生…
  • 6
    カナダ、インドからの留学申請74%を却下...大幅上昇…
  • 7
    もはや大卒に何の意味が? 借金して大学を出ても「商…
  • 8
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 9
    若いホホジロザメを捕食する「シャークハンター」シ…
  • 10
    「白人に見えない」と言われ続けた白人女性...外見と…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 6
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 7
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 8
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 9
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 10
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中