最新記事

イスラム法

マレーシアでも石打ち刑が?

比較的穏健なイスラム国家として知られてきた国に変化の兆し

2015年4月3日(金)11時49分
ローラ・モフタ

宗教保守化 ISISのような思想が普及する下地にもなりかねない Olivia Harris-Reuters

 イスラム教、仏教、キリスト教の三大宗教が共存するマレーシア。先週、住民の95%がイスラム教徒であるクランタン州でシャリーア(イスラム法)をより厳格に適用することを定める刑法の改正が決まった。

 全マレーシア・イスラム党(PAS)が多数派を占めるクランタン州議会が、シャリーア刑法の改正案を全会一致で可決。これによりアルコール摂取や背教行為といった罪に対して、むち打ち刑や石打ち刑が可能になる。建前上はイスラム教徒だけに適用されるが、実際には全住民が対象となり、異教徒の共存を脅かしかねないとして批判の声が上がっている。

 PASは93年に施行されたシャリーア刑法の厳格運用を目指してきた。今後は連邦議会で改憲を目指すとみられている。

 マレーシアは長らく、比較的穏健なイスラム国家として知られてきた。しかしここ数年は熱心なイスラム教徒の支持を集めるため、PASを含むさまざまなイスラム政党が宗教保守化している。マレーシアは人口3000万のうち60%がイスラム教徒で、20%は仏教徒、9%がキリスト教徒。国教はイスラム教だが、憲法で信教の自由が認められている。

 クランタン州の動きにより、多宗教という国家の基本理念が危機にさらされると、マレーシアの社会活動家アズラル・モフド・カリブは懸念する。「シャリーア刑法の厳格運用は宗教や民族、信条にかかわらずすべての人に影響するだろう」

 シャリーア法の刑法を厳格に運用するテロ組織ISIS(自称イスラム国、別名ISIL)の思想が普及する下地にもなりかねない。

 ナジブ首相率いる与党・統一マレー国民組織(UMNO)も、保守派の支持層を取り込むためにイスラム色を強化。イスラム勢力が主導権を握るのを黙認するようになってきた。与党連合がクランタン州に追随するようなら、懸念は一気に高まる。

[2015年3月31日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米中貿易枠組み合意、軍事用レアアース問題が未解決=

ワールド

独仏英、イランに核開発巡る協議を提案 中東の緊張緩

ワールド

イスラエルとイランの応酬続く、トランプ氏「紛争終結

ワールド

英、中東に戦闘機を移動 地域の安全保障支援へ=スタ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 2
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 3
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されずに「信頼できない人」を見抜く方法
  • 4
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 5
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 6
    構想40年「コッポラの暴走」と話題沸騰...映画『メガ…
  • 7
    逃げて!背後に写り込む「捕食者の目」...可愛いウサ…
  • 8
    「結婚は人生の終着点」...欧米にも広がる非婚化の波…
  • 9
    4年間SNSをやめて気づいた「心を失う人」と「回復で…
  • 10
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 5
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 6
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 7
    ふわふわの「白カビ」に覆われたイチゴを食べても、…
  • 8
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 9
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 10
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 1
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 2
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中