最新記事

フランス

仏新聞社襲撃テロで高まる「極右大統領」の現実味

排外主義を掲げる極右政党「国民戦線」のルペン党首がフランスの大統領になる?

2015年1月16日(金)12時12分
ウィリアム・ドブソン(本誌コラムニスト)

筋金入り ほかの政治指導者と一線を画す強い言葉で支持を拡大 Stephane Mahe-Reuters

 「預言者(ムハンマド)のために報復した!」──黒い覆面をかぶり、自動小銃を持った男たちがこう叫ぶ映像を見て、多くのフランス人は言葉を失った。

 イスラム過激派は、イスラム教の神を冒涜した(と、彼らが見なした)人間を殺すと予告していた。先週、風刺週刊紙シャルリ・エブドのパリ本社で12人が殺害され、その予告が現実になったのだ。

 フランスと世界が衝撃で呆然としていたとき、力の籠もった言葉を語ったのが仏極右政党「国民戦線」のマリーヌ・ルペン党首だ。事件から程なく、こう演説した。「現実から目をそらし、きれい事を言うのはもう終わりにしよう。イスラム原理主義を絶対的に拒絶するという方針をきっぱりと、力強く表明すべきだ」

 事の重大性は、フランスのイスラム教徒たちがよく理解している。イスラム教徒団体は直ちに襲撃を非難する声明を発表したが、事件がもたらす政治的影響は明らかだ。今回のテロは「極右政党にとって間違いなく追い風になるだろう」と、フランスのイスラム教徒の多くが支持する政党「共和国の原住民党(PIR)」の広報担当、ウリア・ブテルジャは言う。

 その「追い風」がどれほどのものかは、ルペンも前回に続いて出馬する17年の大統領選ではっきりする。もしいま選挙があれば、ルペンが勝利を収める確率はかつてなく高い。昨年9月のフィガロ紙の世論調査では、ルペンの支持率は現職のオランド大統領を15ポイント上回っていた。シャルリ・エブド襲撃事件の後に調査を行えば、差はさらに広がっているだろう。

主流を目指して「毒抜き」

 排外主義的なナショナリズムを掲げる国民戦線は、社会の反移民感情にも後押しされて、近年党勢を拡大してきた。昨年5月の欧州議会選では、主流派政党を上回る約25%の最多得票で勝利した。ヨーロッパ最大のイスラム教徒人口を擁し、新移民の同化がうまくいっていないフランスでは、強硬な移民排斥論への支持が広がりつつある。

 ルペンにとっての課題は、国民戦線のあまりに過激なイメージを和らげることだ。そこでルペンと党幹部たちは、「毒抜き」を行い、人種差別と反ユダヤ主義の党から脱皮し、強力なナショナリズムとバラまき経済政策を掲げる政党に転換しようとしてきた。

 そのためには、もはや「ルペンの党」ではないとはっきりさせる必要がある。ここで言う「ルペン」とは、マリーヌの父親であるジャンマリ・ルペン前党首のことだ。父ルペンは長年、人種差別的・反ユダヤ主義的な発言を繰り返し、人種差別法違反等で度々有罪判決を受けてきた。つい数カ月前にも、エボラウイルスならヨーロッパの「移民問題」を3カ月で解決できるだろうと語ったばかりだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏「ウクライナはモスクワ攻撃すべきでない」

ワールド

米、インドネシアに19%関税 米国製品は無関税=ト

ビジネス

米6月CPI、前年比+2.7%に加速 FRBは9月

ビジネス

アップル、レアアース磁石購入でMPマテリアルズと契
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:AIの6原則
特集:AIの6原則
2025年7月22日号(7/15発売)

加速度的に普及する人工知能に見えた「限界」。仕事・学習で最適化する6つのルールとは?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「二度とやるな!」イタリア旅行中の米女性の「パスタの食べ方」に批判殺到、SNSで動画が大炎上
  • 2
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長だけ追い求め「失われた数百年」到来か?
  • 3
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」だった...異臭の正体にネット衝撃
  • 4
    真っ赤に染まった夜空...ロシア軍の「ドローン700機…
  • 5
    「このお菓子、子どもに本当に大丈夫?」──食品添加…
  • 6
    「史上最も高価な昼寝」ウィンブルドン屈指の熱戦中…
  • 7
    約3万人のオーディションで抜擢...ドラマ版『ハリー…
  • 8
    「オーバーツーリズムは存在しない」──星野リゾート…
  • 9
    「巨大なヘラジカ」が車と衝突し死亡、側溝に「遺さ…
  • 10
    歴史的転換?ドイツはもうイスラエルのジェノサイド…
  • 1
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 2
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 3
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首」に予想外のものが...救出劇が話題
  • 4
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 5
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...AP…
  • 6
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別…
  • 7
    イギリスの鉄道、東京メトロが運営したらどうなる?
  • 8
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「…
  • 9
    エリザベス女王が「うまくいっていない」と心配して…
  • 10
    「二度とやるな!」イタリア旅行中の米女性の「パス…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中