最新記事

サイエンス

素人を「錦織圭」に育てる脳アプリ

2014年11月17日(月)12時15分
ケビン・メイニー

仕事量や成績も追跡可能

 脳波を「科学レベルで読み取り、バッテリーは5日間持続するウェアラブル装置を作ることができる」と、テキサス州のアンコディン社のピーター・ボナンニCEOは言う。同社は国防総省の防衛先端技術研究計画局(DARPA)と協力し、脳波測定装置を開発中だ。

 同時に、プレーそのものの膨大なデータについても研究が進められてきた。NBA(全米プロバスケットボール協会)では試合をビデオで追跡し、個々の選手の走る速度やボールを持つ回数などをはじき出す。

 普通の職場なら、従業員の仕事量や成績をソフトウエアで絶えず追跡することが可能だ。つまり、仕事能力の高いときの脳や体の状態を特定することが可能になりつつある。次のステップは、その状態をいつでも再現できる方法を割り出すことだ。

 約10年前、DARPAは脳科学を実際の現場に応用する「実用神経科学」に投資しだした。05年以降、この研究は神経科学者のエイミー・クルーズが担当している。彼女が主に探求するのは2つの疑問だ。

 1つは、プロの脳波には測定可能で明らかに際立ったパターンが存在するのか。2つ目は、それを素人に応用して短期間にパフォーマンスを向上させることができるのか、というものだ。

 クルーズは射撃選手を対象に実験を行った。プロの射撃選手に脳波モニターを装着し、引き金を引く直前の脳波に共通するパターンを見つける。最高の状態にあるプロ選手は、自らを完全なリラックス状態に導く方法を熟知している。それは脳の信号にも表れ、心拍は減速する。

 次にクルーズは、素人を2つの集団に分け、片方のグループに脳波モニターを装着。彼らの脳波がプロの脳波と同様の状態になった瞬間、引き金を引くように指示を出す。彼らの射撃技術は、もう一方の集団に比べて2・8倍のスピードで上達した。

 これで2つの疑問はどちらも明らかになった。プロは他に比べて明らかに秀でた脳波パターンを有しており、ひとたびそれを特定できれば、素人の能力向上に応用することも可能だ。次いでに言えば、他のプロをさらに強くすることも。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国首相、消費促進と住宅市場の安定を強調 経済成長

ワールド

トランプ氏「米にとり栄誉」、ウクライナ・欧州首脳ら

ワールド

ロシア、ウクライナに大規模攻撃 ゼレンスキー氏「示

ワールド

郵送投票排除、トランプ氏が大統領令署名へ 来年の中
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:Newsweek Exclusive 昭和100年
特集:Newsweek Exclusive 昭和100年
2025年8月12日/2025年8月19日号(8/ 5発売)

現代日本に息づく戦争と復興と繁栄の時代を、ニューズウィークはこう伝えた

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コロラド州で報告相次ぐ...衝撃的な写真の正体
  • 2
    【クイズ】次のうち、「海軍の規模」で世界トップ5に入る国はどこ?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    AIはもう「限界」なのか?――巨額投資の8割が失敗する…
  • 5
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
  • 6
    恐怖体験...飛行機内で隣の客から「ハラスメント」を…
  • 7
    「イラつく」「飛び降りたくなる」遅延する飛行機、…
  • 8
    40代は資格より自分のスキルを「リストラ」せよ――年…
  • 9
    「パイロットとCAが...」暴露動画が示した「機内での…
  • 10
    「長女の苦しみ」は大人になってからも...心理学者が…
  • 1
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 2
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...「就学前後」に気を付けるべきポイント
  • 3
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コロラド州で報告相次ぐ...衝撃的な写真の正体
  • 4
    「笑い声が止まらん...」証明写真でエイリアン化して…
  • 5
    「長女の苦しみ」は大人になってからも...心理学者が…
  • 6
    【クイズ】次のうち、「海軍の規模」で世界トップ5に…
  • 7
    「何これ...」歯医者のX線写真で「鼻」に写り込んだ…
  • 8
    債務者救済かモラルハザードか 韓国50兆ウォン債務…
  • 9
    「触ったらどうなるか...」列車をストップさせ、乗客…
  • 10
    産油国イラクで、農家が太陽光発電パネルを続々導入…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 6
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 7
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 8
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
  • 9
    イラン人は原爆資料館で大泣きする...日本人が忘れた…
  • 10
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中