最新記事

中東

イラク危機に中国が沈黙を守り続ける理由

「大国扱い」を求める一方で国際社会に貢献する気はない矛盾

2014年8月18日(月)12時18分
ザカリー・ケック

関心は経済だけ? 中国はイラクの石油業界に多大な投資をしているが BigStock

 混迷するイラク情勢をめぐって、驚くほど影の薄い国がある。イラクの石油開発に巨額の投資をしている中国だ。

 中国は03年のフセイン政権崩壊やその後のイラク安定化にまったく貢献しなかったにもかかわらず、新生イラクの原油生産の恩恵を最も享受してきた国とされる。国有企業の中国石油天然気総公司だけでイラクへの投資は40億ドルに上り、今やイラク産原油の最大の輸出先は中国だ。

 なのに今回のイラク危機が始まって以来、中国政府は沈黙を守り続けている。

 理由の1つは、原油の調達に深刻な障害が生じていないことだろう。イラクの油田の大半は南部のシーア派支配地域にあり、バクダッド以北の戦闘地域で中国が出資している油田は1カ所のみだ。

 さらに中国は日頃から、欧米諸国に比べて国際情勢の変化への対応が遅れがちだ。ウクライナ危機でも対応が遅かったが、これは共産党指導部の協議に時間がかかったからだろう。

 しかし中国の沈黙は、もっと大きな流れの表れだとも思われる。それは中国が「大国扱い」を世界に要求しながらも、大国らしく振る舞う気がないということ。彼らにしてみれば、アメリカや中東諸国にイラクの安定化に尽力してもらい、自分たちはその恩恵を貪るほうが都合がいいわけだ。

 これは恥ずべき姿勢だ。大国の名に見合った言動をしなければ、誰も中国を大国扱いしない。その結果、中国が国際社会に不当な扱いをされたと不満を募らせ、緊張が高まる危険もある。

米中関係にも悪影響が

 しかも中国は本来、イラク危機をめぐって指導的な役割を果たせる立場にある。石油業界への最大の投資国として、中国はイラク政府に一定の影響力を有している。シーア派率いるイラク政府の後ろ盾であるイランとも、強力な経済関係がある。

 他方、イラク政府に反旗を翻したスンニ派勢力を支える中東のスンニ派国家にとっても、中国への原油輸出は命綱だ。つまり中国は、対立するシーア派とスンニ派の間を取り持てる絶妙な立場にあるわけだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国、EU産豚肉関税を引き下げ 1年半の調査期間経

ビジネス

英失業率、8─10月は5.1%へ上昇 賃金の伸び鈍

ビジネス

ユーロ圏総合PMI、12月速報値は51.9 3カ月

ビジネス

仏総合PMI、12月速報50.1に低下 50に迫る
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連疾患に挑む新アプローチ
  • 4
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 5
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 6
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 7
    アダルトコンテンツ制作の疑い...英女性がインドネシ…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    「なぜ便器に?」62歳の女性が真夜中のトイレで見つ…
  • 10
    現役・東大院生! 中国出身の芸人「いぜん」は、なぜ…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 7
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 8
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 9
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 10
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中