最新記事

日韓関係

党派を超えて広がる「慰安婦」再検証論

慰安婦募集の強制性を認めた河野談話を見直すべきという世論が日本で高まっている

2014年3月13日(木)15時31分
深田政彦(本誌記者)

慰安婦像 韓国側の執拗な攻撃に日本人もいささかうんざり? Lee Jae-Won-Reuters

 慰安婦問題に関する日本メディアの世論調査が波紋を広げている。フジニュースネットワークと産経新聞が先週公表した合同世論調査で、第二次大戦中の慰安婦募集の強制性を認めた93年の「河野談話」について、66.3%が「政府や国会は調査のあり方や談話の経緯を検証すべきだ」と回答。談話自体を「見直すべきだ」という答えも58.6%に上った。

 米ウォール・ストリート・ジャーナル紙は「(フジ産経グループの)政治的傾向や質問方法からして、この調査の数字がどの程度一般市民の感情を反映しているか」と疑問を投げ掛けた。だが、検証や見直しを求める声は党派を超えて広がりつつある。

 調査結果によれば、共産党支持層の64.1%、無党派層の68.5%など、すべての政党支持層で「検証すべき」が「思わない」を上回った。「見直し」もみんなの党支持層以外は広範な支持を得た。

 一方、「集団的自衛権行使」「原発再稼働」などに関しては、支持政党で回答が分かれた。憲法改正に自民党支持層の64.1%が賛成したが、公明党支持層の賛成は37.8%。この結果を見れば、フジ産経グループの調査が政治的に偏向したとは必ずしも言えない。

 慰安婦問題に詳しい津田塾大学教授の萱野稔人は「党派を問わず、日本人は韓国政府のやり方にうんざりしている」と分析する。河野談話でも納得しない韓国に対して、95年に社会党(現社民党)の村山富市首相はアジア女性基金による見舞金で解決を図ったが、元慰安婦たちは国家賠償を求めて受け取りを拒否。「韓国政府は今ではフランスの国際漫画祭で慰安婦の宣伝までする。日本人の多くはいつまで続くのかと、不信感を抱いている」と、萱野は言う。

 今回の世論調査のきっかけは、事務方トップとして河野談話作成に関わった石原信雄元官房副長官の国会証言。石原によって、談話の基礎となった元慰安婦たちの証言に裏付けがなかったことが明らかになり、菅義偉官房長官が検証を示唆した。

 韓国各紙は「韓日関係が破綻する」と批判。朴槿恵(パク・クネ)大統領は「日本の孤立を招く」と牽制し、日本の村山元首相も「詮索は無意味」と反発した。

 こうした「検証すら許さない」という空気こそが河野談話への不信と見直し論に拍車を掛けてきたのだが。

[2014年3月11日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

英利下げはまだ先、インフレ巡る悪材料なくても=ピル

ビジネス

ダイハツ社長、開発の早期再開目指す意向 再発防止前

ビジネス

ECB、利下げ前に物価目標到達を確信する必要=独連

ワールド

イスラエルがイラン攻撃なら状況一変、シオニスト政権
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 2

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の「爆弾発言」が怖すぎる

  • 3

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親会社HYBEが監査、ミン・ヒジン代表の辞任を要求

  • 4

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 5

    「なんという爆発...」ウクライナの大規模ドローン攻…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 8

    ロシア、NATOとの大規模紛争に備えてフィンランド国…

  • 9

    イランのイスラエル攻撃でアラブ諸国がまさかのイス…

  • 10

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 6

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 7

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 8

    ダイヤモンドバックスの試合中、自席の前を横切る子…

  • 9

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 10

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中