最新記事

災害

台風で吹き飛んだ中国のソフトパワー

被災地フィリピンへのケチ支援で露呈した「善意あふれる隣国」の化けの皮

2013年11月28日(木)17時11分
ジェームズ・ホームズ(米海軍大学校教授)

物不足 最大の被害を受けたといわれるタクロバンに届いた救援物資 Erik de Castro-Reuters

 中国外交には、いつも驚かされる。北京の指導部は近年、軍事力や経済力に頼らない「ソフトパワー」を重視しているようにみえた。ところが、その路線をあっさり捨てただけでなく、もう二度と元に戻れないような姿勢を打ち出している。理由はまったく分からない。

 その最新の例が、台風ハイエン(台風30号)で深刻な被害を受けたフィリピンへの支援だ。中国の支援額が報じられたとき、筆者は金額の桁が2つか3つ少ないのではないかと思った。

 だが間違いではなかった。中国政府から10万ドル、中国赤十字会から10万ドルの計20万ドルだけだという。その後、国内外からの批判を受けて140万ドル相当の救援物資を送ると表明したが、それでも他国に比べれば話にならないほど小さな規模だ。

 諸外国の例をみると、オーストラリアは3000万ドル、国内に70万人近いフィリピン人が住むアラブ首長国連邦は1000万ドル、韓国は500万ドルの支援を発表。アメリカは2000万ドルの緊急援助の拠出を表明し、人的支援の第1波として海兵隊と海軍の約90人を被災地に派遣した。

 04年のスマトラ島沖地震のときに中国が支援に消極的だったのは、そんな能力がないためとみられていた。実際、当時の人民解放軍には、国外の救援活動に出向くような裝備がなかった。だが今は病院船の「和平方舟」まで保有しているのに、なぜか出動させない(のちに派遣した)。

自分の首を絞める「大国」

 フィリピン支援への消極姿勢には意図があるとみられても仕方がない。中国とフィリピンは、南シナ海の領有権をめぐって対立を続けている。

 それでも、最近までの中国からは考えにくい態度だ。この間までは孔子や明代の武将・鄭和の伝統を持ち出して、「善意あふれる大国」を自負し、小さな近隣諸国を懲らしめることなどあり得ないと言いたげだった。だが今の姿勢はまったく違う。

 外交における「ソフトパワー」という概念の生みの親であるアメリカの政治学者ジョセフ・ナイに言わせれば、この力は国家が持つ「魅力というパワー」だ。さらに米海軍大学教授のトシ・ヨシハラによれば、その魅力がフェロモンか香水かといえば、自然に体から漂うフェロモンに例えられる。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

GMメキシコ工場で生産を数週間停止、人気のピックア

ビジネス

米財政収支、6月は270億ドルの黒字 関税収入は過

ワールド

ロシア外相が北朝鮮訪問、13日に外相会談

ビジネス

アングル:スイスの高級腕時計店も苦境、トランプ関税
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:大森元貴「言葉の力」
特集:大森元貴「言葉の力」
2025年7月15日号(7/ 8発売)

時代を映すアーティスト・大森元貴の「言葉の力」の源泉にロングインタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 2
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「裏庭」で叶えた両親、「圧巻の出来栄え」にSNSでは称賛の声
  • 3
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に...「曾祖母エリザベス女王の生き写し」
  • 4
    アメリカを「好きな国・嫌いな国」ランキング...日本…
  • 5
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、…
  • 6
    主人公の女性サムライをKōki,が熱演!ハリウッド映画…
  • 7
    セーターから自動車まで「すべての業界」に影響? 日…
  • 8
    トランプはプーチンを見限った?――ウクライナに一転パ…
  • 9
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首…
  • 10
    『イカゲーム』の次はコレ...「デスゲーム」好き必見…
  • 1
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 2
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...APB「乗っ取り」騒動、日本に欠けていたものは?
  • 3
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に...「曾祖母エリザベス女王の生き写し」
  • 4
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 5
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚…
  • 6
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップ…
  • 7
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 8
    アリ駆除用の「毒餌」に、アリが意外な方法で「反抗…
  • 9
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 10
    孫正義「最後の賭け」──5000億ドルAI投資に託す復活…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中