最新記事

中国政治

セックスと嘘と新・重慶事件

市党幹部が18歳少女とのセックスビデオ流出で失脚。相次ぐ同種の醜聞の背景にちらつく新指導部の思惑

2012年12月19日(水)17時55分
メリンダ・リウ(北京支局長)、長岡義博(本誌記者)

リーダーの真意 相次ぐ党員のスキャンダル発覚と解任は習近平(左端)新指導部が党紀粛正を図るサインなのか Carlos Barria-Reuters

 意外かもしれないが、中国でセックスは最大のタブーではない。確かに当局はポルノサイトへのアクセスをブロックしようと躍起だし、乱交パーティーのたぐいは「集団淫乱罪」というれっきとした刑法上の犯罪だ。

 それでも共産党指導部にしてみれば、セックススキャンダルより政治的不祥事のほうがよほど大きな問題だ。ではセックスと政治の両方が絡んだスキャンダルが起きたら?

 おそらくおとがめ間違いなしだろう。そのことは先月、重慶市北碚区の共産党委員会書記を解任された雷政富(レイ・チョンフー、54)が身をもって示した。雷は解任の3日前に、18歳の少女とのセックスビデオがネットに流出していた。

 問題は、地方党幹部の異常な性癖だけではなかった。12秒間のビデオを最初に公開した告発サイト「人民監督網」を運営する朱瑞峰(チュー・ルイフォン)によると、雷の相手をした少女、趙紅霞(チャオ・ホンシア)は「ある建設会社に雇われて、その会社から雷への賄賂としてセックスを提供したプロ」だという。

「重慶市の建設会社の間では、建設プロジェクトについて政府の認可をもらうため、当局者にこの種の賄賂を贈ることが常態化している」と朱は言う。雷はビデオがきっかけで、収賄の容疑を掛けられているのだ。

 朱によれば、趙はひそかに情事を撮影し、雇い主である建設会社に提出。建設会社はそれをネタに雷をゆすっていたらしい(ちなみに趙の報酬は1晩50ドル以下だった)。怒った雷は、重慶市警察を動かして趙を1カ月間拘束させ、建設会社のトップは1年間刑務所に送り込んだ。

 当時、重慶市の警察トップだったのは王立軍(ワン・リーチュン)。そう、今年2月にアメリカ総領事館に駆け込み、後に重慶市トップ薄煕来(ボー・シーライ)の妻によるイギリス人殺人事件が露見するきっかけになった男だ。既に党籍を剥奪され、完全に失脚した薄には汚職容疑が掛けられているが、複数の女性との性的関係も指摘されている。

 雷のセックスビデオは、人民監督網からマイクロブログの新浪微博(シンランウェイボー)を経由して瞬く間に全国に拡散。これを見た中国の主要メディアは、微博ユーザーが党の腐敗追放で大きな役割を果たしていると絶賛した。

 例えば人民日報系の環球時報は、「贈収賄事件の捜査が始まったが、これは微博が腐敗追放運動において異例のスピードで大勝利を挙げた何よりの証拠だ」と持ち上げた。

 環球時報は、セックスビデオがきっかけで汚職が明らかになった役人も実名入りで報じた。そのリストにはまだ追加がありそうだ。朱は「重慶市高官が関わったセックスビデオがあと5本」あり、現在は本人かどうかを確認している段階だと言っている。

 それでも政治的要素がなければ、雷のビデオは特別話題になるような内容ではなかった。何しろ最近中国で話題になるセックススキャンダルは、もっと段違いにハチャメチャなのだ。

今、あなたにオススメ

ニュース速報

ビジネス

米耐久財受注、8月は予想外に増加 設備投資の勢い復

ワールド

北朝鮮、越境米兵を中国へ国外追放 米国が身柄保護・

ワールド

米、イランの無人機調達網に制裁 ロシア支援と非難

ワールド

ワグネル構成員、一部が東部で戦闘 戦況に影響なし=

今、あなたにオススメ

MAGAZINE

特集:日本化する中国経済

特集:日本化する中国経済

2023年10月 3日号(9/26発売)

バブル崩壊危機/デフレ/通貨安/若者の超氷河期......。失速する中国経済が世界に不況の火種をまき散らす

メールマガジンのご登録はこちらから。

人気ランキング

  • 1

    黒海艦隊「提督」の軽過ぎた「戦死」の裏に何があったのか

  • 2

    ロシア黒海艦隊、ウクライナ無人艇の攻撃で相次ぐ被害──「大規模反攻への地ならし」と戦争研究所

  • 3

    ウクライナが手に入れた英「ストームシャドウ」ミサイルの実力は?

  • 4

    中国の原子力潜水艦が台湾海峡で「重大事故」? 乗…

  • 5

    ウクライナ軍の捕虜になったロシア軍少佐...取り調べ…

  • 6

    最新兵器が飛び交う現代の戦場でも「恐怖」は健在...…

  • 7

    電撃戦より「ほふく前進」を選んだウクライナ...西側…

  • 8

    「可愛すぎる」「飼いたくなった」飼い主を探して家…

  • 9

    「嘔吐する人もいた」アトラクションが突如故障、乗…

  • 10

    ワグネルに代わるロシア「主力部隊」の無秩序すぎる…

  • 1

    黒海艦隊「提督」の軽過ぎた「戦死」の裏に何があったのか

  • 2

    最新兵器が飛び交う現代の戦場でも「恐怖」は健在...「スナイパー」がロシア兵を撃ち倒す瞬間とされる動画

  • 3

    マイクロプラスチック摂取の悪影響、マウス実験で脳への蓄積と「異常行動」が観察される

  • 4

    これぞ「王室離脱」の結果...米NYで大歓迎された英ウ…

  • 5

    「ケイト効果」は年間1480億円以上...キャサリン妃の…

  • 6

    中国の原子力潜水艦が台湾海峡で「重大事故」? 乗…

  • 7

    J.クルーのサイトをダウンさせた...「メーガン妃ファ…

  • 8

    ロシアに裏切られたもう一つの旧ソ連国アルメニア、…

  • 9

    常識破りのイーロン・マスク、テスラ「ギガキャスト」に…

  • 10

    「クレイジーな誇張」「全然ちがう」...ヘンリーとメ…

  • 1

    イーロン・マスクからスターリンクを買収することに決めました(パックン)

  • 2

    <動画>ウクライナのために戦うアメリカ人志願兵部隊がロシア軍の塹壕に突入

  • 3

    中国の原子力潜水艦が台湾海峡で「重大事故」? 乗組員全員死亡説も

  • 4

    コンプライアンス専門家が読み解く、ジャニーズ事務…

  • 5

    黒海艦隊「提督」の軽過ぎた「戦死」の裏に何があっ…

  • 6

    「児童ポルノだ」「未成年なのに」 韓国の大人気女性…

  • 7

    サッカー女子W杯で大健闘のイングランドと、目に余る…

  • 8

    「これが現代の戦争だ」 数千ドルのドローンが、ロシ…

  • 9

    「この国の恥だ!」 インドで暴徒が女性を裸にし、街…

  • 10

    ロシア戦闘機との銃撃戦の末、黒海の戦略的な一部を…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story

MOOK

ニューズウィーク日本版別冊

ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中