最新記事

韓国

韓国新大統領にも財閥は変えられない

選挙選では財閥改革を熱心に訴えたが、前途には高い壁が待ち受ける

2012年12月19日(水)17時37分
ジェフリー・ケイン

茨の道 朴(左)も文も財閥支配を終わらせると訴えたが From left: Kim Hong-Ji-Reuters, Lee Jae-Won-Reuters

 韓国国民にとって、世界有数の巨大財閥グループ、サムスンを率いる李健煕(イ・コンヒ)会長(当時)は、誰も手を出すことができない絶対的な国王のような存在だった。

 それだけに4年前、李明博(イ・ミョンバク)政権の発足直後に、サムスン本社ビルや李の自宅に家宅捜索を入ったときには大きな衝撃が走った。裏金疑惑と脱税の容疑で逮捕された李は08年7月、有罪判決を受けた。

 この一件は、韓国の民主主義が成熟しつつある証かと思われた。だが実際には、韓国の権力構造は簡単に変わるようなものではなかった。

 1年後、李政権は李健煕に恩赦を与えた。韓国の平昌が立候補していた2018年の冬季オリンピックの招致活動に貢献できる人物だからという理由だったが、権力が正義をゆがめたという批判が巻き起こったのは言うまでもない。

 それから3年、12月19日の大統領選に向けて、候補者たちは財閥支配に終止符を打つと息巻いてきた。だが現実には、どの候補者も手軽な攻撃対象として財閥を利用しているにすぎず、誰が新大統領になろうと真の意味での財閥改革は進みそうにない(この原稿の執筆時点では、選挙結果は明らかになっていない)。

韓国の輸出の70%を財閥に依存

 今回の選挙戦では北朝鮮問題よりも、財閥改革をはじめとする「経済民主化」がキーワードとなってきた。保守派の朴槿恵(パク・クンへ)も革新派の文在寅(ムン・ジェイン)も、財閥の影響力を削ぎ、不公平な競争を廃し、中小企業を支援すると約束している。

 ただし「経済民主化」という曖昧な言葉を使っているのには、ある意図がある。「自分が財閥支配の被害者だと感じている人々の支持を広く得るために、漠然とした表現を使っている」と、『韓国人:彼らは何者で、何を望み、どんな未来に向かうのか』の著者マイク・ブリーンは指摘する。

 韓国の輸出の70%を財閥企業が担う現状では、財閥の抜本的な改革は非現実的な話だ。朴候補が勝っても、「大した成果は挙げられないだろう」と、ブリーンは言う。

 朴は中小企業の支援も約束しているが、傘下企業による株の持ち合いの大幅な制限など、当初提示していた厳しい改革案を後退させたと批判されている。朴率いる与党・セヌリ党は、有罪判決を受けた財界人に対する大統領の恩赦を禁じることも提案していたが、最近ではトーンダウンしている。
 
 1960〜70年代に財閥を育て、韓国経済を産業化したのが、朴の父親である朴正煕(パク・チョンヒ)元大統領だというのは皮肉な話だ。朴正煕は財閥に対して、不正をなくし、政府の経済政策と歩調を合わせるよう圧力をかけた。

 対する文は、財閥が株の持ち合い構造を解消するための時間的猶予を3年与えると語っている。資金源を明かさずに資金を調達できる抜け穴だった、同族企業間での資金移動も禁じるという。

 選挙期間中に語った言葉を、どこまで実行に移せるのか、韓国の新大統領には茨の道が待ち受けている。

From GlobalPost.com特約

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

中国不動産投資、1─8月は前年比12.9%減

ビジネス

中国8月指標、鉱工業生産・小売売上高が減速 予想も

ワールド

米国務副長官、韓国人労働者の移民捜査で遺憾の意表明

ビジネス

中国新築住宅価格、8月も前月比-0.3% 需要低迷
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる」飲み物はどれ?
  • 3
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人に共通する特徴とは?
  • 4
    腹斜筋が「発火する」自重トレーニングとは?...硬く…
  • 5
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 6
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 7
    電車内で「ウクライナ難民の女性」が襲われた驚愕シ…
  • 8
    【動画あり】火星に古代生命が存在していた!? NAS…
  • 9
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 10
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベー…
  • 1
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 2
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 3
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 4
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 5
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 6
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 7
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    埼玉県川口市で取材した『おどろきの「クルド人問題…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 6
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 7
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 8
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 9
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 10
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中