最新記事

韓国

候補者一本化にみる韓国野党のジレンマ

12月の大統領選での勝利を目指し、野党の有力候補2人のうち1人が身を引くことになったが、どちらが消えても打撃は大きい

2012年11月26日(月)13時29分
知久敏之(本誌記者)

苦渋の選択 民主統合党の文在寅(ムン・ジェイン、左)と無所属の安哲秀(アン・チョルス) Kim Hong-Ji-Reuters

 野党系候補2人のうちどちらかが降りなければ、与党候補には勝てない。しかしここで選挙戦から降りれば、大統領になれない──。12月19日に投票が行われる韓国大統領選で、野党陣営は大きなジレンマに直面している。

 現在の有力候補者は、与党セヌリ党の朴槿恵(パク・クンヘ)と最大野党・民主統合党の文在寅(ムン・ジェイン)、無所属の安哲秀(アン・チョルス)の3人。「三つどもえ」の戦いになるとみられていたが、文と安が先ごろ、選挙戦スタートまでに候補者を一本化することで合意した。

 野党陣営が分裂したまま選挙になれば、朴正煕(パク・チョンヒ)元大統領の娘で保守層の支持が固い朴の勝利は目に見えていた。調査会社リアルメーターによる今月初めの世論調査では、朴の支持率は約43%でトップ。安が約27%、文が約24%と続く。

 文と安のどちらかに候補者を一本化できれば、野党陣営に勝機が生まれるのは火を見るより明らかだ。文は盧武鉉(ノ・ムヒョン)前大統領の側近だったことで知られているが、一方の安は起業家出身の元ソウル大学教授で、既存の政党政治の刷新を訴えている。候補者を安に一本化すれば、若者を中心により幅広い無党派層の支持を取り付けることができる。しかし事はそう簡単ではない。

無党派層を手放すか、最大野党の崩壊か

 韓国では、就任した新大統領が新党を設立し、勝ち馬に乗ろうとする国会議員が与野党から結集するのが政界の常識。92年の大統領選でも、保守系の統一候補として立候補した金泳三(キム・ヨンサム)は当選後に「新韓国党」を結成し、現在のセヌリ党へと続く保守勢力の基盤をつくり上げた。

 文を擁立する民主統合党から見れば、安が当選後に新党を立ち上げれば民主統合党が崩壊することは分かり切っており、安への候補者一本化は簡単にはのめるものではない。

 反対に、候補者を文に一本化して当選すれば、民主統合党は安泰だ。しかし選挙戦での勝利は怪しくなる。安の「政治刷新」路線を支持する無党派層の票が期待できなくなるからだ。

 このまま朴優勢で選挙戦に突入するか、それとも朴打倒を目指して文と安のどちらかが身を引くか。選挙後の政界再編も視野に入れたぎりぎりの神経戦が続いているが、残された時間は少ない。

[2012年11月21日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

中国CPI、8月は異常気象で伸び加速 PPIは下落

ビジネス

スペースX、2年後に火星へ初の無人宇宙船打ち上げ=

ビジネス

豪ウエストパック銀、新CEOにミラー氏 富裕層部門

ワールド

米とイラク、連合軍撤退計画で合意 26年末にかけ2
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本政治が変わる日
特集:日本政治が変わる日
2024年9月10日号(9/ 3発売)

派閥が「溶解」し、候補者乱立の自民党総裁選。日本政治は大きな転換点を迎えている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「まるで別人」「ボンドの面影ゼロ」ダニエル・クレイグの新髪型が賛否両論...イメチェンの理由は?
  • 2
    【現地観戦】「中国代表は警察に通報すべき」「10元で7ゴール見られてお得」日本に大敗した中国ファンの本音は...
  • 3
    「令和の米騒動」その真相...「不作のほうが売上高が増加する」農水省とJAの利益優先で国民は置き去りに
  • 4
    メーガン妃が自身の国際的影響力について語る...「単…
  • 5
    ロシア国内の「黒海艦隊」基地を、ウクライナ「水上…
  • 6
    ウクライナ水上ドローンが、ヘリからの機銃掃射を「…
  • 7
    強烈な炎を吐くウクライナ「新型ドローン兵器」、ロ…
  • 8
    メーガン妃の投資先が「貧困ポルノ」と批判される...…
  • 9
    森に潜んだロシア部隊を発見、HIMARS精密攻撃で大爆…
  • 10
    国立西洋美術館『モネ 睡蓮のとき』 鑑賞チケット5組…
  • 1
    「まるで別人」「ボンドの面影ゼロ」ダニエル・クレイグの新髪型が賛否両論...イメチェンの理由は?
  • 2
    森ごと焼き尽くす...ウクライナの「火炎放射ドローン」がロシア陣地を襲う衝撃シーン
  • 3
    エリート会社員が1600万で買ったマレーシアのマンションは、10年後どうなった?「海外不動産」投資のリアル事情
  • 4
    中国の製造業に「衰退の兆し」日本が辿った道との3つ…
  • 5
    国立西洋美術館『モネ 睡蓮のとき』 鑑賞チケット5組…
  • 6
    大谷翔平と愛犬デコピンのバッテリーに球場は大歓声…
  • 7
    【現地観戦】「中国代表は警察に通報すべき」「10元…
  • 8
    エルサレムで発見された2700年前の「守護精霊印章」.…
  • 9
    「令和の米騒動」その真相...「不作のほうが売上高が…
  • 10
    死亡リスクが低下する食事「ペスカタリアン」とは?.…
  • 1
    ウクライナの越境攻撃で大混乱か...クルスク州でロシア軍が誤って「味方に爆撃」した決定的瞬間
  • 2
    寿命が延びる「簡単な秘訣」を研究者が明かす【最新研究】
  • 3
    エリート会社員が1600万で買ったマレーシアのマンションは、10年後どうなった?「海外不動産」投資のリアル事情
  • 4
    電子レンジは「バクテリアの温床」...どう掃除すれば…
  • 5
    ハッチから侵入...ウクライナのFPVドローンがロシア…
  • 6
    年収分布で分かる「自分の年収は高いのか、低いのか」
  • 7
    日本とは全然違う...フランスで「制服」導入も学生は…
  • 8
    「棺桶みたい...」客室乗務員がフライト中に眠る「秘…
  • 9
    ウクライナ軍のクルスク侵攻はロシアの罠か
  • 10
    「あの頃の思い出が詰まっている...」懐かしのマクド…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中