最新記事

中東

イラン通貨大暴落の深刻度

通貨リアルが1週間で50%も急落。アハマディネジャド政権に対する国民の不満が爆発する

2012年11月8日(木)14時44分
オミド・メマリアン(コラムニスト)

絶体絶命? 大統領就任当初は議会や革命防衛隊から全面的に支持されていたアハマディネジャドだが…… Brendan McDermid-Reuters

 イラン経済が激震に見舞われている。通貨リアルは1週間で50%も下落。この通貨危機にイラン政府が短期間で歯止めをかけられるかどうかは不明だ。

 先週半ば、首都テヘランの伝統的なバザール(市場)ではほぼすべての店が営業を停止。警察と革命防衛隊は、通貨安への抗議のために集まっていた商店主や経営者を逮捕した。

 ある目撃者が本誌に語ったところによると、テヘランの両替商の大半が店を構えるフェルドゥーシー広場の付近では、治安警察部隊が厳戒体制を敷いていた。市内の商業地区はまるで戦闘地域のようだったという。

 通貨危機の原因は政府の失政か、それとも長期にわたるアメリカの経済制裁がようやく効果を発揮し始めたのか。国内外のアナリストの見方は分かれているが、大方の意見が一致する点もある。ただでさえ厳しい立場のマフムード・アハマディネジャド大統領にとって、今回のリアル急落は極めて悪いニュースだということだ。

 9月初めの時点では、アハマディネジャドは通貨危機の懸念を一蹴した。リアルの対ドルレートは1ドル=3万リアルを記録するのではないかという記者からの質問に対し、その種の予測は「心理戦争」にすぎないと否定した。

 そのわずか4週間後、リアルは1ドル=3万5000リアルまで下落。テヘランのある経営者によると、為替市場は開店休業状態だという。リアルが急落中の今、誰もドルを売ろうとしないからだ。

「経済の悪化が制裁の結果なのか、体制内の腐敗分子による市場介入のせいなのかはともかく、人々は政府の経済失政を非難している」と、テヘランのあるジャーナリストは匿名を条件に語った。「国民は希望を失いつつある。朝から夕方までの間に商品の値段が変わるインフレには耐えられない。それなのにアハマディネジャドは、深刻な問題に直面していることをまだ認めようとしない」

 テヘランで食品流通業を営むある人物は、今週は営業を休止にして従業員に自宅待機を指示したという。「今は商売をしても損を出すだけだ。来週には稼いだカネの価値が半分になるかもしれないんだから」

 今のところ、リアルの急落に対する国民の不満はアハマディネジャド政権に直接向けられているようだ。「デモ隊が叫ぶスローガンを注意深く聞けば、大半が政治的ではなく経済的なものだということが分かる。人々の怒りはアメリカや国際社会の制裁ではなく、自国政府に向けられている」と、カーネギー国際平和財団の上級アナリスト、カリーム・サドジャドプールは指摘する。

「イラン人は望ましい政治体制については意見が割れているが、もっと経済を重視してほしいと考える点では意見が一致している」

 リアルの急落はアハマディネジャドと議会との権力闘争を激化させている。議員たちは、大統領の誤った政策が経済危機の元凶だと考えている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ブラジル、仮想通貨の国際決済に課税検討=関係筋

ビジネス

投資家がリスク選好強める、現金は「売りシグナル」点

ビジネス

AIブーム、崩壊ならどの企業にも影響=米アルファベ

ワールド

ゼレンスキー氏、19日にトルコ訪問 和平交渉復活を
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影風景がSNSで話題に、「再現度が高すぎる」とファン興奮
  • 3
    悪化する日中関係 悪いのは高市首相か、それとも中国か
  • 4
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地…
  • 5
    マイケル・J・フォックスが新著で初めて語る、40年目…
  • 6
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 7
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 8
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 9
    山本由伸が変えた「常識」──メジャーを揺るがせた235…
  • 10
    南京事件を描いた映画「南京写真館」を皮肉るスラン…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 5
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 6
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 7
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 8
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 9
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 10
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中