最新記事

イタリア

地震予知の失敗で禁固6年ってあり?

有罪判決に抗議して高名な科学者が防災委員会を辞任、世界の科学者にも衝撃が走っている

2012年10月24日(水)15時43分

過失致死? 死者300人以上を出した天災の責任を科学者に問えるのか Chris Helgren-Reuters

 仲間が有罪になったのに私だけ残るわけにはいかない──09年4月にイタリア中部のアクイラで起きた大地震を警告しなかったとして政府の防災委員会の委員7人が有罪判決を受けた翌日、委員長のルチアーノ・マイアニが辞任を表明した。

 地震学者ら7人が有罪判決を下されたのは22日。最初に弱い揺れが観測されたときに「不確かで不十分で矛盾する」情報を提供したために、複数の犠牲者が出たと非難され、過失致死罪に問われていた。

 小さな揺れは、その後の大きな地震の前触れとなることもある。このときは直後にマグニチュード6.3の大地震に襲われ、309人が死亡し、数十億ユーロの被害が出た。被告人たちは、迫り来る大地震の可能性を過小評価し、事実上の「安全宣言」を出して人命を危険にさらしたとして有罪になった。

 高名な物理学者であるマイアニは、この判決を受け、もう科学的な助言を提供することが不可能になったと語った。この日、マウロ・ロッシ副委員長とジョゼッペ・ザンベルレッティ名誉委員長も辞任を表明した。

 今回の判決は世界中の科学者に衝撃を与え、予測が当たらなかったからといって罰せられるのは間違いだという声が上がっている。英ガーディアン紙の科学記者マーティン・ロビンズは、次のように警告した。


 今後は自分の予測と情報提供に責任を負おうとする科学者はほとんどいなくなるだろう。もしいたとしても、間違えて訴えられる危険を冒すより、オオカミ少年になることを選ぶだろう。


 アメリカ科学振興協会はイタリアのジョルジョ・ナポリターノ大統領に、判決は「不公平で思慮に欠ける」とする公開書簡を送った。

 一方、リスク評価コンサルタントのデービッド・ロペイクは科学専門誌『サイエンティフィック・アメリカン』に寄稿し、イタリアの科学者たちには確かに過失があったとした。それは地震の予知に失敗したことではなく、危険が迫っていることを人々に正確に知らせなかったことだという。

 7人の被告は禁固6年を言い渡され、今後公職に就くことも禁じられた。弁護側は控訴審で戦う意向だ。

GlobalPost.com特約

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

インドGDP、7─9月期は前年同期比8.2%増 予

ワールド

今年の台湾GDP、15年ぶりの高成長に AI需要急

ビジネス

伊第3四半期GDP改定値、0.1%増に上方修正 輸

ビジネス

独失業者数、11月は前月比1000人増 予想下回る
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ガザの叫びを聞け
特集:ガザの叫びを聞け
2025年12月 2日号(11/26発売)

「天井なき監獄」を生きるパレスチナ自治区ガザの若者たちが世界に向けて発信した10年の記録

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 3
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファール勢ぞろい ウクライナ空軍は戦闘機の「見本市」状態
  • 4
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体…
  • 5
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 6
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 7
    「攻めの一着すぎ?」 国歌パフォーマンスの「強めコ…
  • 8
    【クイズ】世界遺産が「最も多い国」はどこ?
  • 9
    がん患者の歯のX線画像に映った「真っ黒な空洞」...…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 1
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 2
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 3
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やってはいけない「3つの行動」とは?【国際研究チーム】
  • 4
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 5
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 6
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 7
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 8
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 9
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベー…
  • 10
    老後資金は「ためる」より「使う」へ──50代からの後…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中