最新記事

テクノロジー

シリア革命の武器はiPhone新アプリ

アサド政権による激しい弾圧の中で、反体制派はネットを駆使して世界に情報発信を続ける

2012年1月27日(金)15時27分
ババク・デガンピシェ(ベイルート支局長)

iPhoneアプリで独裁体制を追い詰める エジプト・カイロのアラブ連盟本部前に掲げられた反アサドの横断幕、11月12日 Asmaa Waguih-Reuters

 先週、政府軍を離反した部隊が軍施設を攻撃し、与党バース党のビルにまでロケット弾が撃ち込まれたシリア。ただ革命はオンラインでも展開されている。

 この8カ月、インターネットは「シリアの春」で重要な役割を果たしてきた。外国人ジャーナリストが締め出されると、反体制派はデモの映像や反政府スローガンをウェブ上で発信。その中には治安部隊が市民に向けて発砲したり殴打したりする様子を捉えた映像もあった。

 そして先週、反体制派はまた新たなツールを革命に持ち込んだ。反体制派の声やニュースを伝えるiPhoneやiPad向けアプリ。その名も「シリアこそすべて」だ。

 3月のデモ開始以降、市民側の犠牲者は3500人を超えていると推定されるが、政府から厳しい弾圧を受けても抗議運動は収まる様子を見せない。

 それどころか、最近手痛いダメージを受けているのは政権側のほうだろう。アラブ連盟は今月中旬、シリアの加盟国としての資格停止を決めた。シリア政府は抗議したが効果なく、ヨルダンのアブドラ国王もアサド大統領の退陣を求めた。

 こうした外交的手段に追い打ちをかけるように、政府軍から離反した兵士らが結成した武装反体制グループ「自由シリア軍(FSA)」は先週、首都ダマスカス周辺にある政府の主要施設への攻撃を開始した。

 標的の1つとなったのが、ダマスカス郊外にあるシリア空軍の情報機関本部だ。この攻撃はFSAが夏に活動を開始して以来、最も注目を集め、最も複雑な作戦だった。

 FSAによる攻撃は新アプリ「シリアこそすべて」を通じてその日のうちに大々的に発信された。そこには攻撃を受けたとされる空軍施設の航空写真にリンクが張られ、3方向からの攻撃を示す矢印が示されていた。

アサドを皮肉るジョーク集も

 制作者はアプリ制作の意図を、反政府活動に関する政府の偏った報道に対抗するためだと語る。「情勢が激しく変化するなかで事実をゆがめようと企てる者たちがいる。われわれはシリア国内から発せられる最も重要なニュースを集めて編集し、世界に発信できるようにしている」

 アプリ制作チームは、反体制派グループの名前をいくつか挙げて謝意を表している。このアプリには、ニュースやビデオ、そして反政府派の活動場所の地図へのリンクなどが掲載されている。

 さらに秀逸なのはジョーク集だ。ちょっと場違いに見えるかもしれないが、これは厳しい暴力を前にしても反政府側はユーモア精神を忘れないとのメッセージだ。最も有名な反体制の歌はアサドやその一族、取り巻きたちを皮肉たっぷりにこき下ろしているが、アプリ内のジョークも同じように辛辣なユーモアで政権を揶揄している。

 例えば、羊飼いの服を着てロバの横に立つアサドの写真には「変装してテヘランの山中をさまようアサド」の見出しが付いている。アサド政権と盟友関係にあるイランへの皮肉だ。

 今後数カ月の間に政権と反体制派の戦いは本格的な内戦に発展しそうな勢いだ。これから反体制派の支持者は「シリアこそすべて」のようなアプリを通じて現地の情報を得ていくだろう。これに対抗して政権側も独自のアプリを開発してくるかもしれない。誰も利用しないだろうが。

[2011年11月30日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

マスク氏、政府職を離れても「トランプ氏の側近」 退

ビジネス

米国株式市場=S&P500ほぼ横ばい、月間では23

ワールド

トランプ氏の核施設破壊発言、「レッドライン越え」=

ビジネス

NY外為市場=ドルまちまち、対円では24年12月以
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岐路に立つアメリカ経済
特集:岐路に立つアメリカ経済
2025年6月 3日号(5/27発売)

関税で「メイド・イン・アメリカ」復活を図るトランプ。アメリカの製造業と投資、雇用はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「MiG-29戦闘機」の空爆が、ロシア国内「重要施設」を吹き飛ばす瞬間
  • 2
    「ウクライナにもっと武器を」――「正気を失った」プーチンに、米共和党幹部やMAGA派にも対ロ強硬論が台頭
  • 3
    イーロン・マスクがトランプ政権を離脱...「正直に言ってがっかりした」
  • 4
    3分ほどで死刑囚の胸が激しく上下し始め...日本人が…
  • 5
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 6
    【クイズ】生活に欠かせない「アルミニウム」...世界…
  • 7
    「これは拷問」「クマ用の回転寿司」...ローラーコー…
  • 8
    ワニにかまれた直後、警官に射殺された男性...現場と…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「ダイヤモンド」の生産量が多…
  • 10
    今や全国の私大の6割が定員割れに......「大学倒産」…
  • 1
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「MiG-29戦闘機」の空爆が、ロシア国内「重要施設」を吹き飛ばす瞬間
  • 2
    今や全国の私大の6割が定員割れに......「大学倒産」時代の厳しすぎる現実
  • 3
    【クイズ】世界で最も「ダイヤモンド」の生産量が多い国はどこ?
  • 4
    「ウクライナにもっと武器を」――「正気を失った」プ…
  • 5
    アメリカよりもヨーロッパ...「氷の島」グリーンラン…
  • 6
    デンゼル・ワシントンを激怒させたカメラマンの「非…
  • 7
    「ディズニーパーク内に住みたい」の夢が叶う?...「…
  • 8
    友達と疎遠になったあなたへ...見直したい「大人の友…
  • 9
    ヘビがネコに襲い掛かり「嚙みついた瞬間」を撮影...…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
  • 1
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 2
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 3
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 4
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 5
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 6
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
  • 7
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 8
    【クイズ】世界で2番目に「軍事費」が高い国は?...1…
  • 9
    部下に助言した時、返事が「分かりました」なら失敗…
  • 10
    今や全国の私大の6割が定員割れに......「大学倒産」…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中