最新記事

イギリス

ロンドン暴徒から社会保障を剥奪せよ

暴動に加わった若者とその家族は公営住宅から追い出し、社会保障も剥奪しろ——そんな市民の怒りの声にキャメロン首相も同調し始めた

2011年8月15日(月)17時16分

後先を考えず ロンドンのピムリコ地区で起きた暴動後、警察に連行される男性(8月12日 Peter Nicholls-Pool-Reuters

 イギリス全土で1900人以上の逮捕者を出したロンドンの大暴動。主に低所得者層の若者が暴徒と化したといわれるが、デービッド・キャメロン首相は、こうした暴徒から社会保障を剥奪せよという市民の訴えに同調する姿勢を見せている。既に、身柄を拘束された暴徒の家族に対し、公営住宅からの立ち退き処分を決めた自治体もある。

 キャメロンは先週、「自分たちのコミュニティーで略奪行為を行う者」が公営住宅に住み続けることを認めるべきではないと語った。「公営住宅を出れば、家賃の高いところに移らざるを得なくなるだろうが、彼らは先のことを考えた上で行動すべきだった」

 暴動に加担したとされる容疑者に対する社会保障費の支給をやめるかどうかについては、来月国会で審議される予定だ。その際には、オンラインで国民10万人以上の署名が集められた嘆願書も参考にされる。

 暴徒から社会保障を剥奪すべきだと訴える嘆願書には、こう書かれている。「地域の財産を破壊・略奪し、自分たちに生活保護を提供してくれている国家を軽視した者に対して、血税が使われるべきではない」

「暴徒に貸す部屋は1つもない」

 ロンドン南部のワンズワース区議会は先週、暴動に参加した容疑で当局に拘束された若者の母親に対し、公営住居からの立ち退き処分を決めた。これは、暴動に激怒する住民たちの意向を汲み取ったものだ。インターネット上で16万人以上の住民が、暴徒への社会保障を剥奪せよという嘆願書に署名したという。

「公営住宅の家賃が相場より安いのは、地域住民の税金で補填されているからだ。負担してもらっている分、公営住宅の居住者には責任が伴う」と、キャメロンはBBCに語っている。「暴動に関わった者に、もはや居住権はない」。今回、立ち退き処分に踏み切ったワンズワース区議会は、キャメロン率いる保守党が多数を占めている。

 ワンズワース区議会の決定が執行されるには、裁判所の承認が必要だ。AFP通信によれば、区議会は立ち退き処分の根拠として「居住者の犯罪もしくは反社会的行為を禁じるとした賃貸契約への違反」を挙げている。「暴力行為に加担したり近隣住民への迷惑行為、地域の混乱を招くような行動をとる人物に貸す部屋は1つもない」

 ガーディアン紙によれば、ロンドンで住宅事業を手掛けるピーボディ・トラスト社のステファン・ハウレット社長は、裁判所では立ち退きは不当と判断されるだろうとみている。「暴動に関わった者たちには厳格な処分を求めるが、刑法で重い裁きを受けさせるほうが先決だ」

GlobalPost.com特約

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

基調的な物価上昇率、徐々に高まり 見通し期間後半は

ワールド

米中外相が北京で会談、中国のロシア支援など協議

ワールド

中国全人代常務委、関税法を可決 報復関税など規定

ワールド

エクイノール、LNG取引事業拡大へ 欧州やアジアで
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された米女優、「過激衣装」写真での切り返しに称賛集まる

  • 3

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」──米国防総省

  • 4

    今だからこそ観るべき? インバウンドで増えるK-POP…

  • 5

    未婚中高年男性の死亡率は、既婚男性の2.8倍も高い

  • 6

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 7

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    「鳥山明ワールド」は永遠に...世界を魅了した漫画家…

  • 10

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこ…

  • 7

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 8

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 9

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中