最新記事

ファッション

両性具有モデル、リア・Tのランウエー革命

彗星のごとく登場したブラジル人モデルのリア・Tが、男女の壁を越えたファッションの未来を拓く

2011年7月15日(金)15時13分
マック・マーゴリス(リオデジャネイロ)

性差を超えて 今は自信に輝くリアも10代の頃は自分のアイデンティティーを疑い自己嫌悪に陥った Thiago Bernardes-Latincontent/Getty Images

 ヘビ柄の水着にピンク色のホットパンツ。そのモデルはトロピカルなセットの向こうから登場すると、見事なキャットウオークでランウエーの先端までやって来て、居並ぶカメラに向かって腰を右、左に入れてポーズを決めた。

 水着からのぞく下腹部にはドラゴンのタトゥー。遠く離れた一般席からは口笛が聞こえてくる。5月30日〜6月4日にブラジルのリオデジャネイロで開かれたサマーウエアの祭典「ファッション・リオ」で、何より話題をさらったのは、モデルのリア・T(29)だった。

 期間中は連日、魅力的なモデルたちがセクシーな水着姿でランウエーを練り歩いたが、すべてはリアの前座のようなものだった。そんなブラジルでいま一番ホットなニューフェースが、「彼女」でないことに誰が気付いただろう。
 
 ファッション業界にブラジル美人が多いのは有名な話。でもリアは、ただのブラジル美人ではなく、体の性と心の性が一致しない「トランスジェンダー」のモデルだ。今年1月に初めてファッションショーに出て以来、一大センセーションを巻き起こしてきた。

 数々のファッション誌の表紙を飾り、フランス版ヴォーグ誌では両性具有のヌード姿を披露した。スーパーモデルのケイト・モスとキスをしている写真がLOVE誌の表紙になったかと思えば、2月にはアメリカでオプラ・ウィンフリーの番組に出演。ビキニ姿でも男であることを悟られずに済む秘密を明かした。そして今はパパラッチに追い掛けられる身でもある。

 オンライン版業界誌モデルズ・ドットコムでは、世界のトップモデルの42位にランクされているが、リオでのフィーバーぶりを見る限り、リアの人気はまだまだ上昇しそうだ。

サッカー選手の父の苦悩

 ファッション業界は時代の最先端を行く業界だ。大きな話題になって売り上げを伸ばすためなら、悪趣味ぎりぎりの宣伝もいとわない。ベネトンは血しぶきを浴びた服や死刑囚の写真を広告に使い、写真家ダビデ・ソレンティは不健康そうなモデルを使って「ヘロイン・シック」というトレンドを生み出した。

「不況時のファッションは挑発的だ」と、イタリア人デザイナーのエルザ・スキャパレリは言った。第二次大戦中のことだが、それは今も変わっていない。

 最近のトレンドは性別の壁を崩すことだ。イタリア版ヴォーグとフランス版ヴォーグは最近、両性具有を特集した。人気急上昇中のセルビア系オーストラリア人男性モデルのアンドレイ・ペジックは、男性服と女性服両方のショーで使われており、FHM誌で「世界で最もセクシーな女性」の98位に選ばれた。

 だが時代のシンボルになるには代償を伴う。リアの本名はレアンドロ・セレーゾ。サッカーの元ブラジル代表でJリーグ鹿島アントラーズの監督も務めたトニーニョ・セレーゾの息子だ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

タイ自動車生産、3月は前年比-23% ピックアップ

ビジネス

米500社、第1四半期増益率見通し上向く 好決算相

ビジネス

トヨタ、タイでEV試験運用 ピックアップトラック乗

ビジネス

独失業者数、今年は過去10年で最多に 景気低迷で=
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された米女優、「過激衣装」写真での切り返しに称賛集まる

  • 3

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」──米国防総省

  • 4

    今だからこそ観るべき? インバウンドで増えるK-POP…

  • 5

    未婚中高年男性の死亡率は、既婚男性の2.8倍も高い

  • 6

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 7

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    「鳥山明ワールド」は永遠に...世界を魅了した漫画家…

  • 10

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこ…

  • 7

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 8

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 9

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中