最新記事

アルカイダ

ビンラディンが遺した幻の逃亡計画

殺害時に、衣服に縫い付けられていた現金500ユーロから、生前に検討していたかもしれない逃走ルートを大予測

2011年5月9日(月)18時18分
ジェレミー・シンガーバイン

用意周到? ビンラディンはアボタバードの隠れ家で、いざというときの逃亡計画を練っていたのか Faisal Mahmood-Reuters

 ウサマ・ビンラディンは、いざというときの逃走計画を密かに練り上げていたのかもしれない。CIAのレオン・パネッタ長官は先週、パキスタン北部アボタバードの隠れ家で殺害されたビンラディンの衣服に、2つの電話番号と現金500ユーロが縫い付けてあったことを議会関係者らに明かした。

 もしビンラディンが米軍特殊部隊の急襲から逃れていたら、支援者らが旅費や食費、宿泊費などを提供していただろう。しかしここでは、ビンラディンが自力で逃亡すると仮定して、手持ちの500ユーロ(約720ドル相当。現地通貨では約6万パキスタンルピー)でどこまで逃げられるかシミュレーションしてみよう。

 空港のセキュリティーをくぐり抜けることができれば、有望な逃亡先のなかで最も遠方なのは、おそらく台湾だろう。
 
 まず、潜伏していたアボタバードから110〜130キロ離れたパキスタン北東部の街ラワルピンディまでバスで向かう。通常のバスなら400ルピー(約5ドル)。もっと安いバスもあるが、座席が少なくて停留所が多いため、割に合わない。

 ラワルピンディのバスターミナルに到着後、16キロ程離れたイスラマバード国際空港までタクシーで向かう。費用はせいぜい600ルピー(7ドル)。タクシーとバスの運転手は偽札を警戒してユーロ紙幣を受け取らないだろうから、どこかで両替しなくてはいけない。

確実なのは陸路でアフガンに入る方法

 仮に法外な両替手数料を取られたとしても、手元には700ドル相当をはるかに上回る現金が残る。片道航空券を直前割引価格で購入するには十分な額だ(パキスタンのエアブルー航空のアブダビ行き航空券は約260ドル、タイ航空のバンコク行き航空券は約400ドル)。

 アブダビで別の便に乗り換える場合、残りの資金で行ける最も遠い場所は、おそらくエジプトのカイロかアレキサンドリアだろう(それぞれ約260ドルと約220ドル)。これで宿泊費と食費を手元に残しつつ、アボタバードから4000キロ近く離れた地にたどり着ける。

 一方、バンコク経由の場合、台北行きの航空券は約220ドル。台北はアボタバードから約4700キロ離れている。

 陸路にこだわるなら、定刻通りに動かない国際列車を待つよりも車のほうが効率はよさそうだ。リビアで反政府勢力の拠点となっているベンガジなら、アボタバードとは直線距離でおよそ4800キロ離れている。

 最も確実な逃亡ルートは、国境警備が手薄なパキスタン北西部のペシャワル経由でアフガニスタンに車で入る方法だろう。1キロ当たりのガソリン代は約10ルピー。格安のガソリンスタンドで燃料を買い込み、車中で寝泊まりし、食費を1日1ドルに抑え、毎日600キロ以上運転できれば、10日弱でリビアのベンガジに到達できる。

 もっとも現実には、ベンガジをめざす逃避行はまず不可能だろう。賄賂を要求する国境警備隊や障害だらけの交通事情に加えて、ルートによっては5、6カ所もの国境を越えなくてはいけないのだから。

© 2011 WashingtonPost.Newsweek Interactive Co. LLC (Distributed by The New York Times Syndicate)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

高市首相、「進撃の巨人」引用し投資アピール サウジ

ビジネス

中国の住宅価格、新築は上昇加速 中古は下落=民間調

ワールド

ベネズエラ国会、米軍の船舶攻撃を調査へ 特別委設置

ワールド

イスラエルの攻撃による死者数、7万人突破=ガザ保健
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ガザの叫びを聞け
特集:ガザの叫びを聞け
2025年12月 2日号(11/26発売)

「天井なき監獄」を生きるパレスチナ自治区ガザの若者たちが世界に向けて発信した10年の記録

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業界を様変わりさせたのは生成AIブームの大波
  • 2
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体を東大教授が解明? 「人類が見るのは初めて」
  • 3
    メーガン妃の写真が「ダイアナ妃のコスプレ」だと批判殺到...「悪意あるパクリ」か「言いがかり」か
  • 4
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 5
    「世界で最も平等な国」ノルウェーを支える「富裕税…
  • 6
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 7
    コンセントが足りない!...パナソニックが「四隅配置…
  • 8
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 9
    中国の「かんしゃく外交」に日本は屈するな──冷静に…
  • 10
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 3
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファール勢ぞろい ウクライナ空軍は戦闘機の「見本市」状態
  • 4
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 5
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体…
  • 6
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 7
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 8
    老後資金は「ためる」より「使う」へ──50代からの後…
  • 9
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 10
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 9
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中