最新記事

リビア

「飛行禁止区域」で虐殺を止められるか

2011年3月2日(水)17時49分
ジョシュア・キーティング

 この作戦はボスニア・ヘルツェゴビナ紛争には適していた。当時、ほぼすべての固定翼航空機が、片方の勢力(セルビア人)に支配されていたからだ。ボスニア・ヘルツェゴビナの都市バニャルカ上空にセルビア人勢力の6機が侵入した際には、米空軍のF-16戦闘機がこれらを撃ち落とした。

 それでも飛行阻止作戦の効果には疑問が残る。NATO(北大西洋条約機構)に言わせれば、セルビア人勢力から空軍力を奪ったこの作戦が、ボスニア紛争を早期終結に導いたことになる。一方で、飛行阻止作戦は「スレブレニツァの虐殺(イスラム教徒7000人以上が殺害された)」などボスニア紛争の人道危機をほとんど防げなかったと主張する声もある。飛行禁止作戦はその後、NATO軍による空爆作戦へと拡大されていった。

国連安保理の支持は得られない

 今回のリビアの場合、リビアに近いイタリアが飛行禁止作戦のための軍事基地の提供を示唆している。イタリアには米軍の空軍基地もある。米空母はリビア沖にも待機しており、今後の軍事行動の可能性に「柔軟な対応」ができると米国防総省の報道官は言う。

 リビア上空に飛行禁止区域を設置する際の最大の障害は、軍事的なものではなく政治的なものだろう。複数の国連外交筋は口をそろえて、リビア空軍による爆撃がよほど激化しない限りは国連安保理15カ国から飛行禁止区域設置への支持は得られないだろうと語る。さらに、今回はアメリカやその同盟国が安保理の支持なく単独で行動する気配もない。

 飛行禁止区域を設けても、カダフィ軍や傭兵が地上で殺戮を繰り広げれば防げない。やはりその効果に限界があることを考えると、アメリカとその同盟国は、本当にいま飛行禁止区域を設置する意味があるのか、じっくり検討すべきだろう。

Reprinted with permission from www.ForeignPolicy.com, 3/2011. © 2011 by The Washington Post Company.

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

GMメキシコ工場で生産を数週間停止、人気のピックア

ビジネス

米財政収支、6月は270億ドルの黒字 関税収入は過

ワールド

ロシア外相が北朝鮮訪問、13日に外相会談

ビジネス

アングル:スイスの高級腕時計店も苦境、トランプ関税
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:大森元貴「言葉の力」
特集:大森元貴「言葉の力」
2025年7月15日号(7/ 8発売)

時代を映すアーティスト・大森元貴の「言葉の力」の源泉にロングインタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「裏庭」で叶えた両親、「圧巻の出来栄え」にSNSでは称賛の声
  • 2
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に...「曾祖母エリザベス女王の生き写し」
  • 3
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 4
    アメリカを「好きな国・嫌いな国」ランキング...日本…
  • 5
    セーターから自動車まで「すべての業界」に影響? 日…
  • 6
    トランプはプーチンを見限った?――ウクライナに一転パ…
  • 7
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、…
  • 8
    『イカゲーム』の次はコレ...「デスゲーム」好き必見…
  • 9
    【クイズ】日本から密輸?...鎮痛剤「フェンタニル」…
  • 10
    日本人は本当に「無宗教」なのか?...「灯台下暗し」…
  • 1
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 2
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...APB「乗っ取り」騒動、日本に欠けていたものは?
  • 3
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に...「曾祖母エリザベス女王の生き写し」
  • 4
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 5
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚…
  • 6
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 7
    アリ駆除用の「毒餌」に、アリが意外な方法で「反抗…
  • 8
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 9
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップ…
  • 10
    孫正義「最後の賭け」──5000億ドルAI投資に託す復活…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中