最新記事

ウィキリークス事件

米ジャーナリストはなぜ沈黙するのか

アサンジ訴追の動きは報道の自由を脅かす。それなのにジャーナリストがもっと彼を擁護しないのはなぜ

2011年2月25日(金)14時49分
ベン・アドラー(ワシントン)

本当の敵は スウェーデンに移送されればアメリカに引き渡されると主張するアサンジ(10年12月16日、ロンドンの高等法院前で) Stefan Wermuth-Reuters

 報道活動を理由にジャーナリストを裁判にかけるなんて、第三世界の独裁国家か、昔の共産主義国の話......と思っている人は考えを改めたほうがいい。

 昨年11月に民間の内部告発サイト「ウィキリークス」が米政府の外交公電を大量に暴露したことを受けて、アメリカの保守派は同サイトの創設者ジュリアン・アサンジの刑事訴追を求めている。例えば前アラスカ州知事のサラ・ペイリンは、「アルカイダやタリバンの指導者を追跡するのと同等の緊急性をもって」アサンジを追及すべきだと主張している。

 文書をウィキリークスに提供したとされるブラッドレー・マニング陸軍上等兵が機密漏洩の罪で訴追されることは間違いない。一方、リーク情報を記事にした記者やメディアは、言論の自由を保障したアメリカ合衆国憲法修正第1条により保護されるという見方が一般的だ。

 しかし保守派の間では、公電を掲載した新聞への風当たりも強い。ジョセフ・リーバーマン上院議員とマイケル・ムケージー前司法長官は、アサンジに1917年諜報活動取締法(これまでメディアに適用された例はない)を適用すべきだと主張。公電を載せたニューヨーク・タイムズ紙も訴追対象になる可能性があると述べている(司法省は、アサンジを刑事告発するかどうか捜査中だと発表)。

 報道の自由がこれほど大掛かりな攻撃にさらされれば、アメリカのメディアやジャーナリストがさぞかし強硬な反対論を展開していることだろうと思うかもしれない。ところが実際には、メディア側の反撃は一部を除いて散発的で不熱心なものにとどまっている。

 調査報道記者・編集者協会の理事会は、米政府に「大いなる抑制」を求め、「報道の自由とオープンな政府というアメリカの伝統を損ないかねない行動を慎む」よう訴えた。ジャーナリスト保護委員会はバラク・オバマ大統領とエリック・ホルダー司法長官に書簡を送り、訴追反対をはっきりと表明した。

 しかし、そのほかの団体はこの件で声明を発表していない。ワシントン・ポスト紙が社説を載せたのを別にすれば、アメリカの新聞・雑誌の編集者たちはおおむね態度を鮮明にすることを避けている(早い段階でウィキリークスから資料提供を受けたニューヨーク・タイムズは、社説でこの件に一度も触れていない。その理由を問い合わせたがコメントを拒まれた)。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

日中双方と協力可能、バランス取る必要=米国務長官

ビジネス

マスク氏のテスラ巨額報酬復活、デラウェア州最高裁が

ワールド

米、シリアでIS拠点に大規模空爆 米兵士殺害に報復

ワールド

エプスタイン文書公開、クリントン元大統領の写真など
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開したAI生成のクリスマス広告に批判殺到
  • 2
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 3
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦い」...ドラマ化に漕ぎ着けるための「2つの秘策」とは?
  • 4
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 5
    中国最強空母「福建」の台湾海峡通過は、第一列島線…
  • 6
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 7
    おこめ券、なぜここまで評判悪い? 「利益誘導」「ム…
  • 8
    ゆっくりと傾いて、崩壊は一瞬...高さ35mの「自由の…
  • 9
    ロシア、北朝鮮兵への報酬「不払い」疑惑...金正恩が…
  • 10
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 9
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 10
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 6
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 7
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 8
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 9
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中