最新記事

ウィキリークス

ジュリアン・アサンジとは「何」か

ジャーナリストか犯罪者か──彼が起訴されば、メディアは彼を弁護すべきか否かを必死で考えなければならなくなる

2010年12月10日(金)18時15分
ブレイク・ハウンシェル

その正体は 体制転覆を望んでいるようにも見えるアサンジ(11月4日の記者会見で) Valentin Flauraud-Reuters

 内部告発サイトのウィキリークスが米国務省の内部文書を暴露した今回の騒動で、最も興味をそそられた点の1つ――それは創設者ジュリアン・アサンジその人だ。

 ミステリアスで大胆不敵。時にはウィキリークスの「顔」を演じる俳優ではないかと思えてくるほどだ。外見は痩せ細ったドイツ騎士団のようで、根っからの目立ちたがり(イギリスで逮捕される前、彼を捕まえたければカメラマンのふりをすればいいというジョークも囁かれた)。映画『ダイ・ハード』や007シリーズの悪役にぴったりだ。

 しかし一方で、アサンジを権力者に真実を突きつけるヒーローと考える人も大勢いる。彼は社会派の活動家なのか。政府の透明性向上の提唱者なのか。彼自身の数多くの執筆物から伝わってくる知識人気取りを考えると、もっと大きな願望がありそうだ。

 アサンジは機密事項を明るみに出すだけでなく、体制そのものを転覆させようとしている。まるで昔の左派の過激派だ。彼の著作や会見を見る限り、いつか世界を動かす「大うそ」を暴く文書を見つけ出せると信じているように思える。

 ではアサンジはジャーナリストなのか。本人はやや仰々しく自らの活動を「科学的ジャーナリズム」と称している。これは「ニュース記事を提供し、リンクをクリックすれば記事の元になった文書も読める」ことを指すらしい。さらに彼は自らウィキリークスの「編集長」と名乗っている。

ウィキリークスは新しい「現象」

 しかしジャーナリストの仕事はニュースの状況や背景を解説し、彩りや詳細、視点を付け加えること。アサンジの役割はむしろジャーナリストの「仲介業者」だ。違法行為や汚職を暴くため、内部告発者に情報提供を促すシステムを作り出した。その上で、提供された情報の中で本当に重要なものや興味深いものを見分けるため、報道機関の協力を仰いでいる。

 一部ではテロリストとも言われているが、これは明らかに違う。アサンジは政治的な目的のために暴力的な手段を使っている訳ではない。

 では彼はいったい何者なのか。これは観念的な問題として片付けることはできない。もしアサンジが起訴されれば、報道機関はこのメディア界の問題児を弁護すべきか、もしそうならどう弁護すべきかを必死で考えなければならなくなる。

 アメリカの判例では、情報を流出させた人は起訴されても、それを世間に公開した人は起訴されない。しかしこれまで情報を公開してきたのは、「体制の変革」を誓い、内部の人間に法を犯すよう積極的に働きかけるような組織ではなかった。ウィキリークスは間違いなく新しい「現象」だ。

 もっとも、今回の騒動で舞い上がりすぎないよう用心する必要もある。以前からウィキリークスが公開してきたさまざまな米政府の内部資料は、すべて同じ人物が流出源とみられている。もしそれが事実なら、ウィキリークスの栄華も一時的なもので終わるかもしれない。

 実際、今回最も驚きだったのはこれまで誰もこうした内部資料を流出させなかったことだ。文書を閲覧できる人は300万人近くいたらしい。だからといって、ヒラリー・クリントン米国務長官がぐっすり眠れるようになるとも思えないが。

Reprinted with permission from WikiLeaked, 10/12/2010. © 2010 by The Washington Post Company.

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ECB、イタリアに金準備巡る予算修正案の再考を要請

ビジネス

トルコCPI、11月は前年比+31.07% 予想下

ワールド

香港大規模火災、死者159人・不明31人 7棟の捜

ワールド

プーチン氏、一部の米提案は受け入れ 協議継続意向=
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇気」
  • 2
    大気質指数200超え!テヘランのスモッグは「殺人レベル」、最悪の環境危機の原因とは?
  • 3
    トランプ支持率がさらに低迷、保守地盤でも民主党が猛追
  • 4
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与…
  • 5
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 6
    コンセントが足りない!...パナソニックが「四隅配置…
  • 7
    若者から中高年まで ── 韓国を襲う「自殺の連鎖」が止…
  • 8
    【クイズ】日本で2番目に「ホタテの漁獲量」が多い県…
  • 9
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 10
    海底ケーブルを守れ──NATOが導入する新型水中ドロー…
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 3
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファール勢ぞろい ウクライナ空軍は戦闘機の「見本市」状態
  • 4
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体…
  • 5
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 8
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 9
    【クイズ】世界遺産が「最も多い国」はどこ?
  • 10
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 4
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 9
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中