最新記事

ロシア

「賄賂なし=役人やる気なし」地獄の日常

腐敗撲滅でクリーンにはなったけど、賄賂をもらえなくなった役人は最後の人間らしささえ失ってしまった!

2010年9月30日(木)16時59分
マヤ・ドゥクマソバ

果てしない行列 それも同じ列に何度も並ばされる腹立たしさ(シベリアの病院列車の受付で並ぶ人々) Ilya Naymushin-Reuters

 ロシアの役所が非効率なのは今に始まった話ではない。ドミトリー・メドベージェフは08年に大統領に就任した際、国を挙げて汚職と戦うと宣言した。それ以来、贈収賄を減らし効率を上げることを目指して官僚制度の中央集権化を進めてきた。

 だがこの改革は、腐敗が最も進んだ政府上層部の汚職を減らすより、市民生活を混乱に陥れているという批判が強い。

 賄賂が禁じられた今のロシア人の暮らしがどんなに地獄か。それを知るには、一市民の目線から平均的なお役所仕事のあり方を追ってみるのが一番。中でも遺産相続がわかりやすいだろう。

 私の祖母は去年の11月に他界した。それから半年経ってようやく、家族は相続の手続きに取り掛かることができた。これから書くのは、祖母の唯一の相続人である私の母が、家族の暮らすアパートの名義を祖母から自分に書き換えたときの苦労話だ。

 母はまず、祖母がアパートを所有していたことを示す書類を市の公証役場に提出しなければならなかった。提出を受けて公証役場は所有権移転の手続きを開始するのだが、ここでさまざまな書類やら証明書を出すよう求められる。

待合室は2つ、でも椅子は片方だけ

 オリジナルの書類だけでなくコピーも添えなくてはならないため、母は全部で20部もの書類をそろえなければならなかった。必要な書類を集めるために、母は不動産や相続に関連する6つか7つの役所を回る羽目になった。

 これらの窓口の営業時間たるや、不便という一言では片付けられない。どの窓口も時間によって業務内容が異なる。午前中は提出書類を受け付ける時間で午後は各種の承認や政府の認可書類を交付する時間という風に。3〜4時間しか開いていない窓口に書類を提出するために、人々は朝早く、場合によっては前の日の夜から列を作る。

 役所に手続きを支援する姿勢はほとんど見られない。電話をかけてもまずつながらない。インターネット上にも手続きに関する説明はほとんどなく、あってもあいまいだったり省略されすぎていたりして、必要な書類が何と何なのかまるではっきりしないのだ。

 あらゆる書類のコピーを添付することを求められる場合もあれば、求められないこともある。コピーの添付を求められたが手元にないという場合も、窓口にコピー機はない。 

 手数料の支払いもその場ではできない。汚職撲滅運動の影響で、カネを直接役所に渡すことは許されなくなったのだ。

 国営銀行で支払いを済ませたら、領収書を再び窓口に持参しなければならない。支払いのために列に並んだかと思えば、領収書を提出するためにまたもや並ばなければならないのだ。

 どの役所も稼動しているのは全体の50%以下といったところ。例えば窓口が3つあれば、開いているのはたいてい1つだけ。待合室が2つあれば、椅子が置いてあるのは片方の部屋だけだ。十分に椅子が用意されているところなんて1つもない。

まるでジョージ・オーウェルの世界

 目指す許可や承認が降りるまで下手すれば何カ月もかかる。たいていの場合、承認書類の受け取りには発行窓口の受け付け時間の前から列に並ぶ必要がある。

 これだけでも相当につらいのにそれに輪をかけるように、こうした窓口には通常、エアコンの設備はない。困り果て、いらいらしたお年寄りがたくさん来ているのにだ。職員に人当たりのいい人はまずおらず、好きな時間に休憩を取っているようだ。

 手続きをスムーズに進めるためのうまい手はないのかって? 昔は役人がその役目を果たしてくれた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:カジノ産業に賭けるスリランカ、統合型リゾ

ワールド

米、パレスチナ指導者アッバス議長にビザ発給せず 国

ワールド

トランプ関税の大半違法、米控訴裁が判断 「完全な災

ビジネス

アングル:中国、高齢者市場に活路 「シルバー経済」
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:健康長寿の筋トレ入門
特集:健康長寿の筋トレ入門
2025年9月 2日号(8/26発売)

「何歳から始めても遅すぎることはない」――長寿時代の今こそ筋力の大切さを見直す時

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    東北で大腸がんが多いのはなぜか――秋田県で死亡率が下がった「意外な理由」
  • 2
    1日「5分」の習慣が「10年」先のあなたを守る――「動ける体」をつくる、エキセントリック運動【note限定公開記事】
  • 3
    豊かさに溺れ、非生産的で野心のない国へ...「世界がうらやむ国」ノルウェーがハマった落とし穴
  • 4
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体…
  • 5
    25年以内に「がん」を上回る死因に...「スーパーバグ…
  • 6
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害…
  • 7
    「人類初のパンデミック」の謎がついに解明...1500年…
  • 8
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 9
    20代で「統合失調症」と診断された女性...「自分は精…
  • 10
    トレーニング継続率は7倍に...運動を「サボりたい」…
  • 1
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ女性が目にした光景が「酷すぎる」とSNS震撼、大論争に
  • 2
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 3
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット民が「塩素かぶれ」じゃないと見抜いたワケ
  • 4
    東北で大腸がんが多いのはなぜか――秋田県で死亡率が…
  • 5
    皮膚の内側に虫がいるの? 投稿された「奇妙な斑点」…
  • 6
    1日「5分」の習慣が「10年」先のあなたを守る――「動…
  • 7
    なぜ筋トレは「自重トレーニング」一択なのか?...筋…
  • 8
    飛行機内で隣の客が「最悪」のマナー違反、「体を密…
  • 9
    25年以内に「がん」を上回る死因に...「スーパーバグ…
  • 10
    豊かさに溺れ、非生産的で野心のない国へ...「世界が…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 6
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果…
  • 7
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 8
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 9
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 10
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中