最新記事

中国

学ばぬ中国、レアアース禁輸の愚

自国の国力を過大評価する中国はレアアースの対日禁輸に突っ走ったが、勘違いを続ければいずれやっかいな対立に直面することになる

2010年9月24日(金)17時01分
ダニエル・ドレスナー(米タフツ大学教授)

大国の思惑 中国の温家宝首相は日本政府を「恫喝」したが(9月22日、ニューヨーク) Keith Bedford-Reuters

 コメンテーターたちは今も 「中国がアメリカをめちゃくちゃにしている」といったたわごとを語り続けている。確かに中国は金融危機で「焼け太り」した。ただこれまで私が繰り返し主張してきたことの1つだが、中国は戦略的ミスを続けているにもかかわらず成長を続けているのであって、決してミスのお陰で成長しているわけではない。

 同時に私は中国指導部の学習能力が急速に向上し、もっと巧妙に政治力を発揮するようになると思っていた。しかしそれは間違いだったのかもしれない。

 尖閣諸島沖で起きた領土問題を解決するため日本へのレアアース輸出を禁止すれば、中国政府は目的を達成できるのか。一言でいえばノーだ。確かに中国は世界全体で93%のレアアース(希土類)鉱物を採鉱し、重要ないくつかのレアアースの供給では99%以上のシェアを誇っている。

 しかし日本もレアアースを備蓄している。それにこうした動きは、アメリカを含む世界のいたる所でレアアース生産を拡大するための補助金政策につながる。レアアース代替物の開発も進むだろう。中国が対日禁輸を続ければ、世界中に経済的な負担がかかる。ただこうした経済的コストが政治的譲歩につながることはない。

自国の国力を過大評価する中国

 中国のこうした行為はアジア・太平洋地域全体に波及する。日本との関係が緊張すればするほど、中国は日本をアメリカの安全保障の傘の下に押しやることになる。「あらゆる局面において中国は自国を取り巻く雰囲気が大きく変化していると感じている」と、オーストラリア防衛アカデミーのキャリル・A・セアーは言う。「中国は自分の手で中国脅威論を復活させつつある」

 チベットから台湾、南シナ海まで、あらゆる国境地帯で主権を主張することは中国のナショナリストにとってすべての問題に優先する最重要課題だった。しかしそのせいで、周辺の国々は中国の台頭が恩恵をもたらすものなのか、それとも不協和音の原因なのか見極めがつかずにいる。

 今回のレアアース禁輸はこの傾向を強めるだけだ。皮肉なことだが、特にその戦略が優れていたわけではないのに、アメリカには現在の段階で2つの大きな利点を得ている。1つは近隣諸国が中国との間に距離を置くようになること。もう1つはアメリカ政府のやることや言うことは中国に比べればずっと害がないことだ。

 中国政府は自国の成長力が大きいゆえ、台頭に伴って起きる摩擦を自国で処理できる、と単純に考えているのかもしれない。しかし現在の中国はアメリカに対する自国の国力を過大評価する一方で、ほかのアジア・太平洋地域の国々をアメリカ(とインド)に接近させかねない自らの影響力を過小評価している。

 もっと言えば、中国は自国経済のアジア・太平洋地域経済に及ぼす影響力が、政治をも変えることができる、と誤解している。しかしそんな誤解を続ければ、中国はいずれやっかいな対立に直面することになる。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国首相「関税の影響ますます明白に」、世界経済に影

ワールド

米とグリーンランド、「相互の尊重」を約束 米大使が

ビジネス

トランプ米政権、航空会社と空港に健康的な食事と運動

ワールド

トルコがロシアからのガス輸送を保証 =ハンガリー首
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...かつて偶然、撮影されていた「緊張の瞬間」
  • 4
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 5
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 6
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 7
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 8
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 9
    中国の著名エコノミストが警告、過度の景気刺激が「…
  • 10
    「1匹いたら数千匹近くに...」飲もうとしたコップの…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 6
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 7
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 8
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 9
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 10
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中