最新記事

国連

酔っ払い中国外交官、潘事務総長に暴言

夕食会のスピーチで「私もあなたが嫌い」と潘事務総長にからんだ沙事務次長の国際感覚は?

2010年9月10日(金)15時42分
コラム・リンチ

傍若無人 周囲をあきれさせた沙事務次長はその後、潘事務総長に謝罪した Jason Lee-Reuters

 国連事務次長(経済社会問題担当)であり、中国の国連職員トップの沙祖康(シャー・ツーカン)は先週、オーストリアの保養地アルプバッハで開かれた潘基文(バン・キムン)事務総長との夕食会で乾杯の音頭を取った。しかし酔っ払った沙は大声で怒鳴り始め、国連やアメリカ、上司である潘への暴言を吐いた。

 「あなたが私を好きじゃないってことは知っていますよ、事務総長。でも私もあなたが好きじゃない」。出席した国連職員によると、国連幹部が揃った席上で、沙はそう言って潘にからんだ。「(国連本部のある)ニューヨークには来たくなかった。絶対に嫌だった。でも国連を愛するようになったし、あなたのことを少し尊敬できるようになってきた」

 余りの暴言に、複数の国連職員が沙に近付いてマイクを置くよう説得したが、うまく行かなかった。沙は延々と話を続け、アメリカへの反発も語り始めた。「完全に話が外れていた」と、職員の1人は話している。「10〜15分だったが、まるで1時間近くに感じた」。沙がわめき散らす間、潘は笑ったりぎこちなくうなずいたりしていたが、夕食会を中断させることはなかった。

「シャーと呼んでくれ。王様という意味だ」

 国連の幹部職員によれば、外交儀礼を完全に欠いた沙の挨拶は、中国が国連に参加することへの疑問を提起した。今回の件を機に中国がもっと国連のことを真剣に考え、選りすぐりの人材を派遣してくるようになるかどうか、各国の外交官は注目している。「中国が成熟した大国と言えるかどうか、疑問を感じさせる」と、国連に勤務する外交官は言う。「中国はこのことをよく考える必要がある」

 3年前、中国は沙を国連の事務総長として推薦した。沙自身は国連で働くことに興味がなく、さらに暴言で世間を騒がす前歴があったにも関わらずだ。

 沙は聡明で働き者だと、国連の同僚は評する。しかし熱烈な中国のナショナリストから、中立的な国際公務員へと転身するのに苦労していたようだとも指摘する。ある職員は、最初の会議で沙が自己紹介した際に「シャーと呼んでくれ。中国語で王様という意味だ」と言ったのを覚えているという。

 沙の事務次長としての任期は、中国が国連活動への参画を強めていった時期と重なる。かつては国連平和維持活動への参加を拒否していた中国も、今やハイチからレバノンまで様々な平和維持活動に数千人規模の部隊を派遣している。さらに中国の外交官は、国連とアフリカ連合によるダルフールの平和維持活動を受け入れるよう、スーダンを説得する役割も果たした。

クビにするのは簡単ではない

 中国の重要性が増していることを考慮した潘は、沙を事務次長にするという中国の要求に同意した。しかし沙は組織になかなか溶け込めず、同僚との関係もうまく行っていないようだ。夕食会の暴言では、潘は自分を追い出そうとしていたと思うと語った。

 国連職員によれば、たとえそうしたくても潘が沙をクビにするのは簡単なことではない。潘が事務総長の2期目を目指すなら中国の支援は欠かせない。それに、中国政府から強制されなければ沙が辞任することもないだろう。

 国連に勤務する外交官によれば、おそらく沙はあと一年の事務次長の任期を全うするだろう。「私たちも彼との関係を3年間我慢してきた。あと1年は我慢できる」と、ある職員は話す。

 潘は沙の更迭を考えているのかと聞かれた国連職員は憶測を語ることは拒否して、こう言った。「沙氏は謝罪した。それ以上は何も言えない」

Reprinted with permission fromturtle bay , 09/09/2010.© 2010 by Washingtonpost.Newsweek Interactive, LLC.

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

岸田首相、「グローバルサウスと連携」 外遊の成果強

ビジネス

アングル:閑古鳥鳴く香港の商店、観光客減と本土への

ビジネス

アングル:中国減速、高級大手は内製化 岐路に立つイ

ワールド

米、原発燃料で「脱ロシア依存」 国内生産体制整備へ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 2

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS攻撃「直撃の瞬間」映像をウクライナ側が公開

  • 3

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を受け、炎上・爆発するロシア軍T-90M戦車...映像を公開

  • 4

    テイラー・スウィフトの大胆「肌見せ」ドレス写真...…

  • 5

    こ、この顔は...コートニー・カーダシアンの息子、元…

  • 6

    サプリ常用は要注意、健康的な睡眠を助ける「就寝前…

  • 7

    ロシア軍「Mi8ヘリコプター」にウクライナ軍HIMARSが…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 10

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 4

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 5

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 6

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 7

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 10

    メーガン妃の「限定いちごジャム」を贈られた「問題…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中