最新記事

教育

宿題もインド人にお任せ

自宅学習の指導も割安な国にアウトソーシング──インドのオンライン家庭教師に学ぶ子供がアメリカで急増中

2010年6月18日(金)14時53分
サリサ・ライ

 週6日、主婦のサスワティ・パトナイクは夜明け前に起きて自宅でパソコンに向かう。

 彼女は、インド南部の都市バンガロールを拠点とするチュータービスタ社に登録する家庭教師でもある。早起きするのは、アメリカの中高生に勉強を教えるため。英米文学の学期末レポートの書き方を指導し、宿題の手助けをする。

 アメリカ企業がコスト削減のため、人件費などが安い国外に業務を委託するアウトソーシングが始まってから20年近く。こうした手法はごく一般的になり、多くの企業がインドをはじめとする国々に業務を外注している。

 今では一般市民もビジネス業界の慣行に倣い始めた。彼らがインド人に託すのは「教育」だ。

 1500人の教師を擁するチュータービスタは、月額99ドルでオンライン個別指導を無制限に受けられるサービスを提供している。アメリカでは、同様のサービスは1時間当たり約40ドルが相場だ。

 「景気後退でアメリカの平均的世帯では教育支出が家計の最優先事項に浮上している」と、チュータービスタの創業者でCEO(最高経営責任者)のクリシュナン・ガネシュは言う。「教育こそ、競争力を保つための唯一の方法だと考えるアメリカ人が増えている」

 顧客はアメリカ人がほとんどだが、韓国やイギリスにも利用者がいる。需要は増える一方で、近く同社は登録する家庭教師の数をさらに1500人増やす予定だ。

 パトナイクがけさ、教える相手は米ジョージア州とニュージャージー州に住む生徒。アカウントにログインし、チャットで教え子に挨拶する。「こんにちは、ブリトニー」。返事はすぐに返ってきた。

 2人はボイスチャットに切り替え、パトナイクは尋ねる。「今日は何の勉強をしましょうか」

予想外の異文化体験も

 中学3年生のブリトニーは明日、アメリカの作家スティーブン・クレーンの小説に関する小テストを受ける。パトナイクは物語や登場人物について教え子と話し合う。パソコンに接続したデジタルインクパッドに小説のテーマを書き出すと、その文章が瞬時に双方の画面上のホワイトボードに現れ、2人はそれを見ながら話を続ける。

 チュータービスタに登録する教師には、就職難のなか仕事のチャンスを求める大学を卒業したての若者もいれば、専業主婦や元専門職の退職者もいる。2年以上前からチュータービスタで働くパトナイクは、健康上の理由から外で働くことができないためオンライン家庭教師になる道を選んだ。

 就職の機会が限られるインドの地方の住民にとって、これは新しい貴重な収入源だ。チュータービスタの教師の報酬は1万ルピー(225ドル)から2万ルピーになる。

 チュータービスタで授業を受けるアメリカ人生徒はピーク時間帯で2500人。1日当たりの利用者数は約3500人に上る。

 言葉がよく通じないこともあるし、通信上の問題が起こる場合もあると、1年前からチュータービスタを利用するニューヨークの高校生モーリーン・ベーカーは言う。それでも「すごく優秀な先生がいるし、楽しくてためになる授業をしてくれる」。

 教師の側から言わせれば、一部の生徒は集中力不足だ。「アメリカの子供はインドほど学校や家庭で勉強のプレッシャーにさらされていない」と、パトナイクは話す。

 年配の教師はカルチャーショックに直面している。アメリカ人の生徒は教師をファーストネームで呼んだり、平気で自分の意見を言ったりする。インドでは教師が批判されることはめったにないし、敬称で呼ばれるのが当たり前だ。

 とはいえチュータービスタによれば、アメリカのティーンエージャーと会話するのは文化の違いを乗り越えるための試練の1つ。大丈夫、インド人家庭教師もすぐにアメリカの若者言葉の使い方を覚え、数学の問題をマンゴーではなくドーナツを例にして説明できるようになるはずだ。

GlobalPost.com特約)

[2010年5月19日号掲載]

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

機械受注1─3月は前期比4.4%増、先行きは減少見

ビジネス

米メーシーズ、通期利益見通し上方修正 新CEOの計

ビジネス

英中銀、毎会合後の会見求めるIMF提案を真剣に検討

ビジネス

イーライリリーの糖尿病薬「チルゼパチド」、中国で承
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:スマホ・アプリ健康術
特集:スマホ・アプリ健康術
2024年5月28日号(5/21発売)

健康長寿のカギはスマホとスマートウォッチにあり。アプリで食事・運動・体調を管理する方法

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    娘が「バイクで連れ去られる」動画を見て、父親は気を失った...家族が語ったハマスによる「拉致」被害

  • 3

    「目を閉じれば雨の音...」テントにたかる「害虫」の大群、キャンパーが撮影した「トラウマ映像」にネット戦慄

  • 4

    9年前と今で何も変わらない...ゼンデイヤの「卒アル…

  • 5

    ベトナム「植民地解放」70年を鮮やかな民族衣装で祝…

  • 6

    服着てる? ブルックス・ネイダーの「ほぼ丸見え」ネ…

  • 7

    高速鉄道熱に沸くアメリカ、先行する中国を追う──新…

  • 8

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 9

    「韓国は詐欺大国」の事情とは

  • 10

    中国・ロシアのスパイとして法廷に立つ「愛国者」──…

  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    娘が「バイクで連れ去られる」動画を見て、父親は気…

  • 5

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 6

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 7

    「隣のあの子」が「未来の王妃」へ...キャサリン妃の…

  • 8

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 9

    米誌映画担当、今年一番気に入った映画のシーンは『…

  • 10

    「まるでロイヤルツアー」...メーガン妃とヘンリー王…

  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中