最新記事

テロ組織

アルカイダCFOの「高い」資格要件

国際テロ組織のナンバー3で最高財務責任者だったマスリが死亡。後継者に課せられる職務とは

2010年6月3日(木)16時53分
マーサ・ホワイト

後釜募集中 米軍の攻撃で死亡したアルカイダの金庫番、サイド・アル・マスリ Reuters

 冒険を求めてやまない心と抑えきれない宗教的情熱があり、洞窟内の重役室で働く意欲があるあなた! ぜひアルカイダに就職を――。

 メディアはアルカイダの最高幹部の1人、ムスタファ・アブ・アルヤジド(別名サイド・アル・マスリ)の死を伝えている。パキスタン領内で米軍無人機の攻撃を受けたという。

 マスリはアルカイダの創設メンバーの1人で、序列はウサマ・ビンラディンとアイマン・アル・ザワヒリに続く第3位。企業で言う最高財務責任者(CFO)と最高執行責任者(COO)に相当する立場にあると言われてきた。

 では、テロ組織のCFOとは実際にどんな仕事をするのだろう?

 一言で言えば「何でも屋」だ。アルカイダは9・11テロ前の最盛期(当時は組織内にマスリ率いる財政委員会が存在した)に比べ、中央集権的な色はかなり薄れている。

 だが、組織の運営は今も多くの面で企業に似ている。もっと具体的に言えば、アルカイダはコンビニエンスストアやファストフード店などのフランチャイズで言う「本部」のような存在だ。

 アルカイダの傘下に入ることを希望する組織は、かなり厳しい審査を受けなければならない。自らテロを実行し、公の場でアルカイダの幹部をほめ称え、自分たちのイデオロギーを「本部」のものに合わせなければならないのだ。

「フランチャイズ」の中心人物

 たとえばアルジェリアのイスラム武装組織「布教と聖戦のためのサラフ主義集団」がアルカイダへの加入に向けて動き出したのは06年のこと。国内のイスラム過激派に金銭的、物質的な援助を行なったかいあって、この組織はザワヒリから正式に加入を認められた(今ではこの組織は『イスラム・マグレブ諸国のアルカイダ』という名で知られている)。

 また「フランチャイズ」への加入を希望する組織は、アルカイダに金や武器などを上納するのが「契約条件」となっている。マスリはこうした交渉の取りまとめ役だったと思われる。

 アメリカのシンクタンク、外交評議会によればテロ組織は寄付や麻薬取引、それにマネーロンダリングから活動資金を得ている。また9・11テロに関する独立調査委員会によれば、アルカイダの資金の大半は寄付によってまかなわれているという。

 寄付は個人からのものもあれば慈善団体(武装組織の運営だったり、まともな団体がだまされて......という場合もある)を経由して流れ込んだものもある。

 マスリは資金集めに関して組織の表の顔として活躍した。09年6月に公開されたビデオで彼は、武器などの物資の不足により思うような活動ができないと嘆き、志を同じくするテロリストに対しアルカイダへの寄付を呼びかけた。

 そしてマスリが集めた金は9・11テロのような武装闘争に使われた。タリバンのアヘン取引のほか、サハラ砂漠を舞台にした武器や麻薬の密輸もアルカイダの資金源になっていると言われている。

資金繰りと暗殺、両方が心配

 マスリはアルカイダの口座の金の出入りを管理する立場にもあっただろう。ただしテロ組織は金を貯めたり送金したりするのに銀行やクレジットカードを使うことはできない。

 その代わりアルカイダが利用しているのは「ハワラ」と呼ばれる非正規の金融システムだ。送金仲介人のネットワークで当局の監視も受けないし、銀行のようなきちんとした取引記録も残さないから都合がいいのだ。

 9・11テロの後、普通の銀行に預けられていた資産が差し押さえられたことも、アルカイダが地下金融を利用するようになった理由の1つだった。

 時に人事管理もCFOの重要な職務となる。マスリは工作員の移動を助けるために、金や偽造パスポートなどを渡したりもしたはずだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

インド中銀総裁「低金利は長期間続く」=FT

ビジネス

シャドーバンキング、世界金融資産の51% 従来型の

ワールド

ロシア財政赤字、2042年まで続く見通し=長期予測

ワールド

スーチー氏の健康状態は「良好」とミャンマー軍政、次
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を変えた校長は「教員免許なし」県庁職員
  • 4
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 5
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 6
    「住民が消えた...」LA国際空港に隠された「幽霊都市…
  • 7
    【人手不足の真相】データが示す「女性・高齢者の労…
  • 8
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 9
    FRBパウエル議長が格差拡大に警鐘..米国で鮮明になる…
  • 10
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 4
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 5
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 6
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 7
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 8
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 9
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 10
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 5
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 6
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 9
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中