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スキャンダル

聖職者の手から子供たちを守れ

性的虐待事件の隠蔽や処罰の甘さに、カトリック教会に対する不信は深まる一方

2010年6月3日(木)15時18分
リサ・ミラー(宗教問題担当)

 カトリック教徒の友人Kが送ってきたメールには「これ以上我慢できそうにない、(リベラル寄りの)米国聖公会に改宗するべきだろうか」とあった。彼女は憤慨していた。

 ヨーロッパでは1万人を超える子供たちが、彼らを守る立場にあるはずの神父たちに虐待され、レイプされた。責任を認めず、事態を矮小化しようとする司教や広報担当者は、自分がしでかしたことの重要性が分からない老いぼれにしか見えない。

 オックスフォード大学のディアメイド・マックロック教授(教会史)が自著で述べているように、1139年に制定された聖職者の独身制の目的は「聖職者と信者の間に壁を設け、聖職者の地位を示す」ことにあった。この壁は今も存在するが、それによって示される聖職者の地位とやらからは、異常性の臭いが漂ってくる。

 3月14日までに、ローマカトリック教会からぞっとするニュースが続々と飛び込んできた。アイルランドで1975年、神父から性的虐待を受けていた子供たちが事実を告発しないという誓約書に署名させられた。その場にアイルランド・カトリック教会首座司教を務めるショーン・ブレイディ枢機卿が立ち会っていたことが明らかになったのだ。

「正直なところ、辞職に値する問題だとは思わない」とブレイディはコメントした(後に謝罪)。ドイツでは法王ベネディクト16世(本名ヨゼフ・ラッツィンガー)の兄ゲオルク・ラッツィンガーがレーゲンスブルク大聖堂の聖歌隊の少年たちをときおり平手打ちしていたが、いつも胸を痛めていたと告白。一方で、聖歌隊の養成学校内で性的虐待が起きていたことは知らなかったと発言している。

 虐待事件の波は法王にも及んだ。バチカンの広報担当者は、77〜81年に法王がミュンヘンとフライジングで大司教を務めた当時、教区内で小児性愛者の司祭による性的虐待が行われていた事件を、法王は関知していなかったとしている。

既に法王は潔白でない

 問題の司祭にセラピーを受けさせ、後に教区の司祭に復職させたのは自分であって、ヨゼフ・ラッツィンガーではない──法王の当時の代理人は、そう明かしている(司祭は復職後も性的虐待を繰り返した)。

 法王がどんな事実をいつ知ったのか、メディアは追求し続けるはずだ。だがミュンヘンの事件がどう転ぼうと、既に法王は潔白の身とは言えない。司祭の性的虐待に目をつぶっていたボストンのバーナード・ロー枢機卿の擁護に関わり続けた事実があるのだから。

 ボストン大司教区を20年近く管轄したローは、虐待を受けた子供たちの保護者からの度重なる嘆願の声を無視し、被害者に沈黙を要求。訴えが500件超に達した02年になって、ようやく辞任に追い込まれた。

 ローは現在、ローマにあるサンタ・マリア・マッジョーレ大聖堂の主席司祭を務めている。04年のニューヨーク・タイムズ紙の記事によれば、月収は1万2000ドルで「法王の直属の部下」として「宮殿のようなアパート」住まい。枢機卿会の現役会員として次期法王を選出できる立場にいる。甘過ぎる処分としか言いようがない。

 法王はアイルランドの性的虐待事件に関して信徒に宛てて文書を発表するが、かつてなく後悔の念に満ちた教皇文書になることだろう。法王は一連の醜聞を表す際に「邪悪」という単語を使ってきた。今回もおそらくこの言葉が使われるはずだ。だが、これまでカトリック教会が悔い改めたことはなかった。

 破滅的な事態を招いた責任者たちは、自らを省みて過ちの大きさにぞっとしたりはしないのだろうか。関係者を辞職させるか聖職を剥奪して、絶対的な価値観の原点に立ち返ろうとは思わないのか。

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